シェリルの気遣い(前編)
そうして、娘たちとソフィアの会話が一段落したのを見計らって。シェリルは真顔で口を開いた。
「……ところでソフィア様。お子様がお生まれになってから、他のお妃様から何かされたりしましたか?」
問われたソフィアが、複雑な表情を浮かべて目を伏せる。そして彼女は、ため息をつきながら返した。
「……いや、まあ。大したことは無かったと思いますよ」
その態度では、何かあったと言っているようなものだ。壁際にいたベラが真剣な顔をして、シェリルは苦笑を滲ませた。
「そうですか。ソフィア様が大事にしたくないのなら、私は何も言いませんが。……でも気をつけてくださいね、本当に。レイラ様は大人しく身を引かれたようですが、ディアナ様はまだ諦めていないはずですから」
「はあ……。その、今更こんなことを聞くのもどうかとは思うのですが、どうしてディアナ様はそんなに陛下に固執するのでしょうか。首尾よく寵姫の座が得られても、アドレイド様には及ばないことは分かっているでしょうに」
ソフィアが困ったような顔で、そんな言葉を口に出す。シェリルは笑みを深めて告げた。
「そこまで考えられる方では無いのでしょうね。……と言いますか、大抵の方はコンドレンとミルワードのように、自分の家も帝国を動かせる立場になると思っているのでは? 実際にはジルヴェストの一存でそのようなことが出来るほど、帝国の両輪は甘くないのですが。お父様たちが余計な揉め事を起こさないように、臣下としての体裁を保っていらっしゃいますからね。勘違いもするでしょう」
「でも、流石に700年もの歴史の中で、コンドレンともミルワードとも関係ない家の娘が皇帝に愛された例が無いわけが……わけ、が……」
ソフィアは反論しようとしたが、その途中でシェリルの意味深な微笑みを見て言葉を詰まらせる。彼女は楽しそうに話を続けた。
「そうですねえ。確かに皇帝陛下と一口に言っても、色々な方がいらっしゃいましたから。中には色好みな方もおられましたよ。そういう方が治めていた時期に限って、なぜか国1番の美姫がミルワード家の養女として育てられていましたけれど」
その言葉を聞いて、ソフィアは色々と納得した。それと同時に、彼女は気づく。
「……な、なるほど……。……あれ? それならジルの好みって、かなり分かりにくかったんですか?」
「ええ、まあ。ソフィア様に出会うまで、あの人はそういうことには興味がないと思われていましたから。当然それは、私達も同じです」
シェリルは真剣な表情で、ソフィアの言葉を肯定した。