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お部屋訪問(後編)

「その3家の中でもミルワード家は特別なんです。当主が代々、皇帝陛下の教育係を務めていますから。今の当主候補であるロイド伯父様(おじさま)も、お兄様……アーサー様の教育係なのですよ」


リリーがそう言って胸を張る。クレアはそんな彼女に向かって、淡白な声をかけた。


「リリー。それはミルワード家の役割なのだから、当然でしょう。あなたが誇ることではないわ」


「うう……それはそうですけどぉ」


姉に注意された妹が、明らかに落ち込んだ様子を見せる。ソフィアはそのやり取りを、微笑ましげに見つめていた。リリーはしばらく目を伏せていたが、やがて気を取り直して顔を上げる。


「と、とにかく! そういうわけですから、ミルワード家には歴史書や科学書や天文書といった専門的な書籍が揃っているんです。その1部が、ここにも置いてあるんですよ。ソフィア様も、せっかくですから何かお読みになられてはいかがですか? リリーのオススメは、この鉱物の図鑑です!」


その言葉と共に。彼女は机の上に置かれた、分厚いハードカバーの本を指差した。その横でクレアが別の本を持ってくる。


「私からは、この歴史書をオススメします。エリアス帝国の700年間が分かりやすく纏められていて、とても読みやすいので」


「えっ。……ええとぉ……」


2人の少女から、キラキラとした目で見つめられて。ソフィアは冷や汗を流しながら固まった。外で体を動かして遊ぶことが大好きだった彼女は、当然ながら勉学とは無縁であり、むしろ苦手な方だったので。


(……正直、活字を読むのは好きじゃないけど。でも、こんなに楽しそうにしてるのに、断っちゃうのも悪いしなあ……)


そう思いながら、彼女は2人から本を受け取る。そして気を抜くと硬くなりそうな表情を必死に笑顔として(たも)ちながら、ソフィアは2人に向かってお礼を伝えた。


「……ありがとうございます、リリー様。クレア様も。時間はかかるかもしれませんが、必ず全部お読みしますね」


そんな、明らかに無理をしていると分かる彼女の態度に。気付かずに目を輝かせる娘たちとは対称的に、シェリルはスッと真顔になった。


「大丈夫ですか、ソフィア様? どうしても無理なら、そう言ってくださっても良いんですよ」


心配そうな声で、彼女はソフィアに(ささや)きかける。ソフィアは苦笑を浮かべて、受け取った本を胸に抱いた。


「平気ですよ、シェリル様。私もやることがなくて困っていたので、リリー様とクレア様の提案は渡りに船です」


小声でそんな言葉を返して、ソフィアは娘たちに目を向ける。2人の娘は楽しそうに笑って、ソフィアの目を見返してきた。

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