ただいま、おかえり
その日の夜。クリスにお乳をやっている最中に、ジルヴェストはソフィアの部屋に飛び込んできた。
「ただいまソフィア! 会いたかった……!」
満面の笑みでそう言った彼を見て、ソフィアは苦笑を浮かべた。会いたかったも何も。
「そんなに長く離れてないけど」
「これは気持ちの問題だ。子供たちと過ごす時間も楽しかったが、やはりお前とこうしているのが1番良い……」
喋りながらも、彼の動きは止まらない。ベッドに座っている彼女の肩を抱いて、その隣に腰を下ろす。そうして彼は、少女の首元に頬ずりした。
「クリスはどうだ? 俺がいなくて、寂しがってはいなかったか?」
「別に、全然。大人しすぎて、ちょっと不安になるくらいよ。ナディアさんたちがいるおかげで、お世話も大して負担じゃないし」
ソフィアは息子を抱いたまま、呆れた顔で言葉を返した。そして続ける。
「あー、もう。本当に大丈夫だったのかしら。そんな調子で」
「ああ。自分でも意外だが、思っていたよりはずっと上手くいったとも。……そういえば、リリーはお前にも会いたがっていたぞ。また来ると約束してくれたのに、中々来てくれないと」
ジルヴェストは彼女の目を見つめて、穏やかな表情で言葉を発した。そんな彼を見て、ソフィアはようやく安堵する。
「……そういえば、そんなこともあったわね。社交辞令だと思っていたけど、本当に待っていてくれるのなら……クリスと一緒に、会いにいってもいいのかも」
「そうしてやってくれ。リリーは少し我儘で、融通が利かないところがあるからな。まったく誰に似たんだか……」
「あなたの血でしょ。もしかして、自覚がないの?」
軽口を叩きながら、2人は互いに体を寄せ合う。ジルヴェストはフッと笑って、ソフィアの唇に触れるだけのキスを落とした。
「……確かにそうだな。俺はできることならば、ずっとお前の側に居たい。子供たちの面倒を見ているのも、お前に嫌われたくないからだ。全て、お前の……ソフィアのために……」
彼の瞳に熱が籠もる。ソフィアはそれを見て、諦めたように息を吐いた。
「……はいはい。心配しなくても、私は逃げたりしないわよ。クリスが大きくなるまで、側で見ていないとならないし……。私はもう、あなたの妻になることを受け入れたから」
そう告げて。彼女は自分から、彼に口づける。それが合図になった。ジルヴェストはクリスごと、ソフィアを自分の腕の中に閉じ込めて笑う。
「そうだ。それでいい。俺はお前を手放さない。永遠に」
愛と執着が込められた言葉が、ソフィアの耳元で紡がれる。少女は目を閉じて、皇帝の腕に全てを委ねた。