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自分のためだけに生きる人(後編)

「……商人」


レイラはポカンと口を開けた。確かにアドラム家は、まだ爵位を得てはいない。社交界でも、そのことで散々陰口を言われた。けれど今のソフィアの言葉には、レイラを(おとし)めようという意図は微塵(みじん)もない。ただ、思ったことを言っただけ。けれど。


「……ソフィア様。あなたが社交界に出ないようになさっているのは、ある意味では正しいことなのかもしれませんわね」


事実だから、何でも指摘して良いというわけではない。アドラム家か、もしくはレイラが爵位を得ていたら。今のソフィアの言葉は、名誉毀損(めいよきそん)で訴えられる可能性が高かった。そう思いながら、レイラは微笑む。


「でも、おかげでようやく分かりましたわ。私があなたに勝てなかった理由(わけ)が」


「……はあ、そうですか」


彼女の真意を(はか)りかねて、ソフィアは少し警戒する。そんな少女を見て、レイラはニコニコと笑いながら話を続けた。


「後宮には居られなくなるということは、先ほどお伝えしましたわね。実は私は、もう側妃ではないのです。正規の手続きを踏んで、陛下とは離縁しましたから。芽が出ないのなら帰ってこいと、お父様からも言われてしまいましたし……今のソフィア様のお言葉で、私の覚悟は決まりました。陛下のことは諦めて、私を大切にしてくださる別の殿方を探します」


「…………はい?」


ソフィアは心底驚いた。そんな彼女に、ナディアが苦笑を浮かべて耳打ちする。


「陛下と彼女たちとの関係が形だけのものであることは、誰の目にも明らかでしたから。特にその美貌を広く知られているレイラ様とディアナ様には、再婚でも良いから嫁に取りたいという話が絶えたことがなくて……」


「な、なるほど。確かに白い結婚なら、離縁も許されていますものね……?」


そう言って、自分を納得させながら。ソフィアは改めて、レイラの顔を見た。側妃は王族に準じた扱いを受けるが、離縁すれば臣下としての待遇に戻る。それに付随(ふずい)して、各種の特権も無くなるというのに……彼女はとても、晴れ晴れとした表情だった。


「……ディアナ様も、同じことをなさればいいのに」


思わず口に出してしまう。その名を耳にして、ナディアとレイラは同時に吹き出した。本当に。


「……ふ、ふふ。そうですね。ディアナ様に憧れている男性も、星の数ほどいましたから……彼女もそうすれば、もっと幸せになれますわね。でもあの人には、きっと一生無理ですわ」


その言葉を残して。彼女は空になったカップを机の上に置いて、席を立った。


「今日はありがとうございます。……そしてさようなら、ソフィア様。あの人に負けるのは、死んでも嫌でしたけれど。あなたに負けたのなら、私は納得できます。今日からは、臣下として。あなたと陛下にお仕えしますね」


そう言って、深々と頭を下げた後に。彼女は部屋を出ていった。残されたソフィアが、不思議そうな顔で呟く。


「……いや、お仕えするって……ジルヴェストはともかく、私は別に外には出ないし、もう関係はないんじゃあ……?」


その言葉を耳にして。ナディアはもう1度、笑いそうになったのだった。

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