二日目の夜(中編)
父親に褒められて、娘たちが嬉しそうに笑う。そんな彼女たちの様子を、シェリルは安堵の思いで見守っていた。
「……良かったわ。あなたがちゃんと、子供たちと向き合う気になってくれて」
「なんだ今更。その気がなければ、この部屋を訪ねはしない。……お前はそのために、俺に釘を差したんだろう」
その言葉を聞いて、ジルヴェストが不満そうな顔をする。シェリルはそんな彼の姿にも動じずに、からかうような笑顔で返した。
「だってねえ。ソフィア様に対するあなたの態度は、とても普通とは思えなかったもの。彼女に嫌われたくない一心で行動してるんじゃないかと思うのは、むしろ自然なことじゃない?」
そんな会話を聞いて、娘たちが首を傾げる。特にリリーは聞き覚えのある名前を耳にしたことで、思わず口を挟んでしまった。
「ソフィア様って、オルグレンのことを楽しそうに話してくださった、あのソフィア様? あの人がどうかしたんですか?」
「……いや、どうもしないが。リリー、お前、ソフィアと会ったことがあるのか」
今度はジルヴェストが戸惑ったような顔をする。リリーはそんな彼の変化には気が付かず、ニコニコと笑って答えた。
「はい! 以前、お母様が紹介してくださったんです。優しくて面倒見が良い、素敵な方でしたわ。また来てくださるって約束したのに、中々訪ねてくださらなくて。ねえお父様、ソフィア様とお会いしたら、リリーがお待ちしていますって伝えてくださいね。前はあの人のお話を聞いてばかりでしたから、次はリリーが色々お教えしたいんです!」
あまりにも無邪気なその言葉に。ジルヴェストはどう返すべきか迷って、固まってしまった。そんな彼を見て、クレアが妹を嗜める。
「リリー、ダメでしょう。お父様を困らせてしまっては。ソフィア様は今、とてもお忙しいのよ。無理もないわ。お父様の特別なお妃様として、国中から注目されているんだから。時間ができたら絶対に来てくださるから、それまで我慢しなさいな」
そんな、どこかズレた指摘を。リリーは素直に受け入れて、頷いた。ジルヴェストは複雑な表情で、娘を見つめて口を開く。
「……クレア。どうしてお前が、そんなことを知っているんだ。お前とリリーはアリスのように、王宮に出ることはないだろう」
「何を仰っているの、お父様。王宮だけじゃなくて、後宮でも噂になっているのよ。お父様がソフィア様を見初められて、毎晩ずっと通われたことも……ソフィア様が、お父様のお子をお生みになられたことも。召使いが話していたわ。子供が生まれても、ずっと通われているなんて。そんなことは初めてだって」