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続・一日目の夜

「……いえ。大丈夫です、お母様。僕はお父様のやり方を否定しません。その上で、勝ってみせます」


アーサーは山の側にいる歩兵の駒を5つ、抜け道の近くに移動させながらそう言った。ジルヴェストはその横で、騎兵の駒を進軍させる。2人の駒は、ボードの上ですれ違った。ジルヴェストはそのまま、アーサーが湖畔に置いた駒を自分の駒でを挟み()ちにする。アーサーの方は、残った歩兵の駒を使ってジルヴェストの王を捕らえようとした。けれどそれが、かなり難しいことだというのは、誰の目にも明らかだ。王の進む速度は歩兵と同じである上に、アーサーが動かせたのは6つの駒だけだったのだから。それでも彼は善戦した。弓兵の弓が届く距離まで来た歩兵を着実に落として、その隙に残っていた騎兵で敵陣に切り込む。そうやって三方からの攻めに耐えながら、自分の王の駒まで使って、彼はジルヴェストの王を追い込んだ。


「……中々やるな、お前も」


皇帝が笑って告げる。その言葉を聞いた皇太子は、嬉しそうにした。


「そう思ってくれますか? ……良かった」


そんな2人の会話を横で見ていたアリスが、戸惑ったような顔で母を見る。アドレイドは彼女の頭を撫でながら、呆れ顔で言った。


「殿方には殿方の意地があるのよ。……今は分からなくてもいいわ。いつか、貴女も知る日が来るでしょう」


彼女の言葉の少し後に、盤上の駒が動かされる。アーサーがどこかスッキリとした顔で口を開いた。


「……僕の負け、ですね。流石はお父様です」


ジルヴェストは息子の言葉に苦笑した。その(いさぎよ)さは、母方の血だろうかと思いながら。


「いや、俺も少し大人気なかった。この勝負は引き分けということにしておこう」


彼はそう言いながら、手際よく駒を片付ける。


「今日はここまでだ。……お前たちは、母と共に寝るのか?」


「アリスはそうですけど、僕はもう1人で寝ています。……でも、どうしてそんなことを聞くんですか?」


「それはまあ、今夜は俺もここで眠ることになるからな。気になるのは当たり前だろう。……どうだ。お前も久しぶりに、一緒に寝るか?」


不思議そうな顔をした息子に、彼は真顔で問いかける。少年は目を見開いた。


「……で、でも。ソフィア様のことは、いいんですか?」


その名を聞いて。ジルヴェストは少しだけ、驚いたような顔をした。彼女に言われてここに来たのに、今の今まで、そのことを1度も考えなかったから。


「……そうだな。ソフィアなら……」


彼女はいつも、ジルヴェストの背を押してくれた。その心に寄り添って、支えてくれていた。その場にいない、今でも。


「せっかくだからそうしろと。……自分は気にしないと、そう言ってくれるだろう。だからいいんだ」


「そうですか。……本当に、優しい方なんですね。お父様にそう言わせるほど」


アーサーは父の言葉に、どこか納得したように頷いた。そして彼は、先に就寝の準備をする。彼らの話を聞いていたアリスが、はしゃいだ声を出した。


「それなら、今日は一晩中、お父様といられるのね。そのソフィア様に感謝しなくちゃ。ね、お母様」


「……そうね、アリス。でもこれは、本当は当たり前のことなのよ」


アドレイドが笑みを深めて娘を見る。こうして4人は、初めて家族が揃った夜を過ごした。

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