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一日目の夜(後編)

「これらの駒の手番を使って、橋を落とす」


真顔で告げられた言葉を聞いて、少年が目を見開く。


「でも、そんなことをしたら……お父様も、橋が使えなくなりますよ? 川に落ちても、歩兵なら時間はかかりますが動けるので……」


「意味はない、と? だが、距離が近くなればなるほど、弓は届きやすくなるぞ」


ボードの横に置かれたダイスを持って、ジルヴェストが笑う。彼はそのまま、3度ダイスを転がした。


「4の目が2つに1の目が1つか。3つ目の隊は落とせなかったが、まあいいだろう」


少年が1列に並べた駒の、1つ目と2つ目を取って。彼は我が子に手番を返した。アーサーは少し慌てたような様子で、川に落ちた歩兵を引き上げさせる。彼の手番は、それでほとんど終わってしまった。彼がそうして手間取っている間に、ジルヴェストは自分の歩兵を2つに分けて、湖の周囲からアーサーの軍を囲もうとする様子を見せた。アーサーが慌てて弓兵を動かして、それに対応しようとする。そうすると彼は、今度は山の向こうに置いていた騎兵の駒に手を付けた。


「お父様。僕をからかっているんですか。さっきから、あちこちに行ってばかりで……作戦も無しに、好きに行動しているようにしか見えません」


(たま)らずアーサーは口を出した。ジルヴェストが笑みを深める。


「さて、それはどうかな?」


彼は最後に、ボードの左隅に置いた王の駒を持った。そしてその駒を前に進める。


「さあ、お前はどうする。どこか1箇所の陣形を崩せば、俺はそこから攻め入るぞ。膠着(こうちゃく)が続けば、俺の王が山の向こうの騎兵を連れて、お前の王を捕らえに行く。この状況で、お前は何を捨てて、何を守る?」


真正面から問いかけられて、アーサーは一瞬言葉に詰まった。そして彼は戸惑いながら、最初に分けた歩兵と騎兵の駒を移動させる。


「僕は……僕なら、ここを空けます。騎兵は洞窟を通れませんし、山を越えるには時間がかかりますから」


「……そうか」


ジルヴェストがニヤリと笑って、山のタイルを指し示した。そこに描かれているのは、山を2つに分けている長い渓谷。


「ここに騎兵を置く。山の上からではなく、下から通るのなら……この渓谷は、障害ではなく近道になるな?」


アーサーは言葉を失った。彼の指摘は、ゲームのルールを超えたものだ。けれど現実的には、彼の方が正しい。どちらを優先すればいいのか、迷っている子供の代わりに。口を開いたのは、横で見ていたアドレイドだった。彼女はどこか、呆れたような顔をしている。


「全くもう。相変わらず貴方は、口が上手いんですから……。アーサー。ハッキリ言っていいのよ。これは現実じゃなくてゲームなのですから、そんなことは出来ないって」

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