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一日目の夜(前編)

1夜明けて。ジルヴェストはいつもと同じように、王宮に仕事をしに行った。違うのは、その帰り。普段なら迷いなくソフィアの部屋に行く彼は、その日はアドレイドの部屋を訪ねた。出迎えた召使いが、驚いたような様子で主人を呼ぶ。彼女は全てを察したような笑顔で、彼を出迎えた。


「順番ね。明日はシェリィの元に行かれるのでしょう?」


子供たちには聞こえないような、小さな声での問いかけに。皇帝は無言で頷いた。彼はそのまま、部屋の中に入っていく。


「……誰? お父様……?」


「そうだよアリス。この人が、僕たちのお父様。この国の皇帝陛下だ」


木製のボードゲームで遊んでいた子供たちが顔を上げて、彼の方に視線を向ける。少女が戸惑ったように呟いた言葉に、少年は迷いなく答えた。彼はボードゲームを横から(のぞ)き込んで、薄く笑う。


「戦場を()したゲームか。懐かしいな。昔は俺も、これを使って学んでいた」


「お兄様の復習に、お付き合いしているんです。でもアリスには、難しくて」


「そうか。それなら次は、俺が相手になってやろう」


見上げる娘の、頭を撫でて。彼は笑顔で告げた。娘がパッと顔を輝かせる。


「じゃあお父様は、今日はお時間がお有りなのね。アリス、ゲームは下手だけど、お茶は美味しく()れられるようになったんです。その、もしよかったら……お父様に、お出ししてもいいですか?」


「ああ。構わない」


と、そんなやり取りをしながらジルヴェストはアリスがいた場所に膝をついて、アーサーと向かい合った。そしてゲーム盤に目を落とした彼は、興味深そうな顔で口を開く。


「駒の位置は戻したのか。俺はそのままでも構わなかったが」


「……何を言うんですか。四方をほぼ囲まれて、王が逃げられなくなっていたのに。そこから逆転できたとでも?」


アーサーがムッとした顔で問いかける。ジルヴェストは平然とした表情で、ボードに設置されている山のタイルを動かした。


「ああ。……そら、ここに抜け道がある。このボードは500年前の、アルフ湖畔の戦いを元にして作られたものだからな。お前が先程取っていた戦略は、500年前にエリアス国が取った行動そのままだ。そしてこの抜け道は、その時のアルヴァード国王であったルキウスが、少数の手勢を連れて逃げ込んだ道。当然、裏まで……」


彼がタイルを1枚ずつ裏返していく。その道は山を突き抜けて、裏側にある平野に繋がった。


「続いている。これくらいのことは、お前もロイドから聞いているだろう」


淡々とした声で言い切って、彼はアリスが恐る恐る差し出したお茶を優雅な仕草で飲み干した。そして静かに笑みを深める。


「温度も蒸らし方も完璧だ。この年でここまで出来るなら、数年後には立派な淑女になっているな」

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