解決策
「……本当、世話の焼ける人なんだから」
ソフィアは子供を抱えたまま、彼の前で膝をついた。ジルヴェストが顔を上げる。涙で濡れた碧い瞳と目が合って、少女は柔らかな笑みを浮かべた。
「感情が、理屈で割り切れるわけないじゃない。私が分かってほしかったのは、親としての心得よ。……あなた、子供の名前は言えても、子供の好き嫌いとか……得意なことや苦手なことも、言えないんじゃない?」
その問いかけに。ジルヴェストは目を見開いて、固まった。何か話そうとしても、結局何も出てこない。そんな彼の様子を見て、ソフィアは苦笑した。
「やっぱりね。あなたは子供たちにも、興味を持っていなかった。アドレイド様やシェリル様に対するのと同じで、ただ帝国の皇太子や姫として接するだけ。後宮の外でなら、それも間違いではないのかもしれないけど……」
少女はため息をついて、左手を伸ばした。そしてその指で、彼女は彼の涙を拭う。
「後宮の中にいる時くらいは、父親として……話をしたり、遊んであげたり、そういうことをしてみたら? 別に誰も咎めないでしょ。……もちろん私も。あなたが他のお妃様の所に行ったからといって、何も言ったりしないから。それがアドレイド様やシェリル様なら尚更ね」
明るい笑顔で、断言する。そんな彼女に、ジルヴェストはまた愛おしさが募っていった。
「……っ、ソフィア……!」
手を伸ばす。抱え込む。彼女は抵抗せず、彼に体を預ける。それが、どれだけ。
(どれだけ俺の心を惹きつけるか……ああ、ソフィア……!!)
彼はもう、少女の言葉に逆らえなかった。彼女が望むことは、国を傾けてでも叶えたくなる。けれど彼女は、決してそんなことは望まない。それを痛いほど理解しているから、彼はただ、思いを言葉にして伝えただけだった。
「……分かった……。お前が、そう言ってくれるのなら……。俺はできる限り、努力しよう。だから今夜は、側にいてくれ……」
絞り出すような口調で、彼が言う。その言葉に頷いて、彼女はそっと呟いた。
「……はいはい。いてあげるから、そろそろ部屋に帰りましょ。あなたも疲れているでしょう? 帰って、湯浴みをして……その後は、一緒に寝てあげるわ。大丈夫よ。私も、あなたのことを愛してるから……。それに、クリスもね。あなたが居ない時は、私がちゃんと教えるわ。お父さんは、あなたが嫌いなわけじゃない。他の兄弟が寂しくないように、会いに行ってあげているだけなんだって。だからあなたは、何も心配しなくていいのよ」
少女に促されるままに、皇帝はゆっくりと立ち上がる。そして2人は、連れ立って部屋に戻ったのだった。