問題点と解決策(前編)
寄り添い合う2人を見て、男爵が感慨深そうに呟く。
「本当に、愛し合っているんですね。……陛下の気まぐれにも驚きますが、何よりもソフィアが……そんな顔を、するようになるとは」
「……お父様は私を何だと思っているの。私だって人並みに、憧れてた人だっていたんだからね」
ソフィアが思わず返した、その言葉に。ジルヴェストの目が据わる。
「……ほう。それは初耳だな。詳しく聞かせてくれるか?」
「あのねぇ……そんな顔をしてる人に、教えるわけないでしょ。大体その人とは何も無かったわよ。私がまだ子供だった頃に、その人は故郷に帰って結婚しちゃったし」
少女がジト目で皇帝を見る。公爵と伯爵は複雑な顔をしていた。アドレイドの手を握っていたアーサーが、小さな声で言う。
「お父様は、本当にソフィア様のことを愛していらっしゃるんですね。お母様よりも……」
アドレイドが少しだけ、悲しそうな顔をする。彼女は既に割り切っているが、アーサーはまだ7才の子供だ。父親に愛されないことを、彼がどのように受け止めているのか。それはアドレイドには、分からないことだった。
「……大丈夫ですよ、アーサー。ジルヴェストはあなたに、期待をかけていますから。あなたが皇太子として努力すれば、彼もあなたを見てくれます」
それは嘘だ。ただの気休めでしかない。そうと分かっていても、アドレイドはその言葉を口にするしかなかった。アーサーの透明な瞳は、ソフィアの方に向けられている。その背に向かって。
「気になるのなら、話しかけてみればいい。今でなくても、後宮に戻った時とかね」
いつの間にそこに居たのか。オスカーが笑いながら声をかけた。アーサーが驚いたような表情で振り返る。
「……オスカー様。どうして……」
「ジルヴェストはどうせ、そこまで気が回らないだろうからね。助言をしに来たんだ。……あの馬鹿はともかく、ソフィアちゃんはよく分かってる。アーサーの立場も、その気持ちも。だから恐れずに、仲良くなってしまえばいい。彼女の子供だって、きっと同じだ。君を脅かす敵じゃなくて、君を助ける味方になってくれるだろうから……。だから君は、怖がらなくていいんだよ」
笑いながらそう言った騎士の目を、アーサーは感情の見えない瞳で見返した。
「……別に僕は、怖がっていたわけではありませんが」
「そうかい? それなら僕の勘違いだ。悪かったね」
彼は動じず、気楽な口調でそう返す。それと同時に、夜会の終わりを告げる鐘が大広間に鳴り響いた。