表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/226

鍔迫り合い(後編)

男爵の言葉は少し騒がしくなった室内でもかき消されることなく、周囲にいた者たちに届いた。それまで黙っていた公爵が、真顔になって口を開く。


「やはり貴方には見えているのですね。今の帝国を取り巻く状況が」


「見えていない方など、ここにはいらっしゃらないでしょう」


「さて、それはどうでしょうな。今、貴方への不満を声高に叫んだ者たちは、少なくとも理解などしていないでしょう。事によればそれは、アルヴァード国と繋がっているのではないかと疑われるような……そんな態度なのだということは」


公爵が口の端を笑みの形に歪めて告げる。男爵は渋い表情になった。


「あのようなことを、本気で言っているわけがないでしょう。ただの軽口ですよ。真剣に対応した方が馬鹿を見ます」


「……そうですか。では男爵に(めん)じて、そういうことにしておきましょう。しかし勿体ないですね。貴方であれば、中央に来ても十分やっていけるでしょうに……故郷に()もって、このような時にしか来ないというのは」


伯爵が笑い含みに言う。その言葉に、男爵は眉間のシワを深めた。


「勘弁してください。毎日こんな調子では、こちらの心が()ちません。オルグレンで牛や羊と向き合っている方が、まだマシです」


その言い草に、ジルヴェストはとうとう笑い出した。よりにもよって。


「帝国の両輪を、家畜と並べて比べるか。豪胆というか何というか」


「礼儀知らずなだけですよ。こんな人間を、中央に置いてはおけないでしょう」


「いや? 俺は面白いと思うがな。流石はソフィアの父親だ」


心の底から楽しそうに、そんなことを言い出す彼に。ソフィアは(たま)らず、口を挟んだ。


「ジル。そのくらいにしておいて。お父様は本当に、王宮には馴染めない人だから。田舎に引きこもっていたいっていうのは本音だし、その方がお父様にとっても良いと思う。……私もそうだけど、ここは本来、自分が居るべき場所じゃないって……。どうしても、そう思えてしまうのよ」


その言葉は彼女の本心から出たものだ。そう察して、ジルヴェストは彼女の腰に腕を回して引き寄せる。


「そうか。お前がそこまで言うのなら、男爵を引き止めることは諦めよう。……だが、お前にはここに居てもらうぞ。俺の子を……クリスを産んだお前は、もう俺から離れることはできない。一生、ずっと。俺の妻として、側にいてくれ。俺の可愛いソフィア……」


後半は彼女の耳元で、少女だけに聞こえるように(ささや)いて。皇帝は嬉しそうに笑っていた。少女はそんな彼を見て、諦めと呆れが混ざった表情でため息をつく。夜も()けて、夜会は終わりに近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ