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皇帝

帝国が大陸の半分を支配しているといっても、それは決して盤石(ばんじゃく)なものではない。大陸の北にある大国は、停戦協定を結んではいるが、それでも油断のならない相手だ。国内の貴族は、表向きはコンドレンとミルワードを中心として纏まっているが、裏では彼らを失脚させる(すき)(うかが)っている。


(彼女は、そんなことは知らないだろうが……)


眠るソフィアの顔を見ながら、ジルヴェストは小さく笑った。オルグレンは大陸の南側にある小国だ。その周囲にある国々は、全て帝国に属している。


(だから放っておくことができた。いずれ他の国と同じように、帝国の傘下(さんか)に入ることを選ぶことが分かっていたから。そして実際にそうなった。……予想外だったのは、ただ1つ。オルグレンに、ソフィアがいたこと。彼女が人質として、俺に嫁いできたことだけだ)


穏やかな顔で眠る彼女。ジルヴェストはその寝顔から、目が離せなかった。


(この俺に、面と向かって意見する。そんな女が、シェリルやアディの他にもいたとはな)


コンドレン公爵家のアドレイドと、ミルワード伯爵家のシェリル。2人は彼の幼馴染だ。親に決められた婚約者で、次代の皇帝を産むために嫁いできた。


(……俺もアディも、そしてシェリルも。ソフィアが思う、家族にはなれない。なるつもりもない)


次代の皇帝を産み育てる。それが彼女たちの役割だ。彼が力を貸す必要はない。


(シェリルも、そんなことは望んでいない。部屋を訪ねても、不審な顔をされるだけだ)


ジルヴェストの脳裏に、幼馴染の顔が浮かぶ。想像の中の彼女は、冷たい目をして彼を見ていた。互いに、愛のない結婚であることは分かっている。悲しむようなことではない。今の彼にとって、大切なことは他にある。


(……ソフィア。俺を拒まず、過度に(こび)を売ることもしない女。お前のような女は、他にいない)


ジルヴェストは少女を抱く腕の力を強めた。彼女は何も知らず、呑気に寝息を立てている。彼はゆっくりと彼女に顔を近づけて、その額に口づけた。


(お前は誰にも渡さない。……そうだ。コンドレンとミルワードが何と言ってこようとも、これだけは絶対に譲らない。俺は永遠に、ソフィアの側にいたい)


窓には覆いがかけられていて、明かりは既に消されている。真っ暗な室内で、彼は薄笑いを浮かべた。その瞳には光がない。完璧な王であった男が、たった1つ抱いた欲。その存在を知る者はまだいない。彼もまた、自分が変化していることには気づけなかった。

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