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波乱の渦(後編)

そうして、皇帝の勅令(ちょくれい)は下された。オルグレン男爵も、流石にこれを拒否するわけにはいかず。彼は迎えの馬車に乗り、オルグレン領を出発した。


「オルグレンから帝都まで、どんなに急いでも1ヶ月はかかります。その間に、準備を済ませておきましょう」


ジルヴェストは、感情の読めない瞳で告げた。彼は慎重に根回しをして、男爵が到着する日に合わせて夜会を開く計画を立てる。その夜会は、名目上は神話の祝日に合わせたパーティーだ。だが、王宮にいる貴族たちはその真の趣旨(しゅし)を理解していた。


「ここが最後の機会だ。他の者に先を越されぬようにな」


とある貴族が、自分の手勢(てぜい)を集めてそう言い聞かせていたように。その日に合わせて、貴族たちは各々の思惑を胸に秘めて、秘密裏に動き出した。


「大丈夫ですよ、ソフィア様。当日は、私達がお側にいます。オスカーも警備に加わってくれるそうですし……。何より、ジルヴェストがいてくれる。貴女にも、その子にも。決して害は及びません」


アドレイドは、不安がるソフィアにそう言葉をかけた。コンドレン公爵家の思惑は、アーサー・コンドレン・エリアスが帝国の正当な継承者であることを、改めて人々に示すことだ。故に彼女も、その夜会には出席せねばならなかった。それも自分の息子を連れて。


「でもね、ソフィア様。私と貴女が無二の友であることを証明するのには、これは良い機会です。私達は、手を取り合って歩めるのだと。そう皆様にお伝えしましょう」


アドレイドは、笑みすら浮かべて言った。彼女の言葉に、シェリルも頷く。


「ミルワードはコンドレンと同じ考えです。お父様は神経質な方ですから、きっと気を揉んでいるでしょうけど。私がソフィア様と仲良くしてみせれば、少しは安心するでしょう。……最も周囲の貴族からは、あなたが帝国の両輪に取り込まれていると思われるだけかもしれませんが」


最後の言葉は、目を伏せて。自嘲気味(じちょうぎみ)に、紡がれた。ソフィアはそれを彼女の誠意として受け取り、そして真っ直ぐに前を見た。


「何と言われようと構いません。私は元より、クリスを次の皇帝にする気はありませんから」


ジルヴェストと2人で決めた、その子の名前はクリスティアン。愛称はクリス。その名を呼びながら、ソフィアは腕の中に抱いた息子に視線を向けた。


「この子には、そんなこととは関係なく、ただ幸せに生きてほしいんです。……きっとお父様も、私の望みを分かってくださると思います」


彼女は状況を正しく理解している。その上で断言した。アドレイドとシェリルは彼女の言葉を信じて、その日を待つと決めたのだった。

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