己の価値、周囲の評価(後編)
「ジルヴェストは小さな頃から、次代の皇帝と目されていました。決められた道に疑問を持つこともなく生きてきた彼が、初めて欲しいと思った人。それがソフィア様です。……貴女も、感じたことがあるでしょう? ジルヴェストは貴女が離れていかないように、細心の注意を払っていると」
真剣な表情のアドレイドから投げかけられた言葉で、ソフィアは以前感じた恐怖を思い出した。と同時に、彼女は頬を赤らめる。
「……アドレイド様やシェリル様も、お分かりになっていらっしゃったんですね」
「当たり前でしょう。私達は、彼の幼馴染よ。最初から分かっていたわ。……でもソフィア様。あなたはそれを、怖がらないのね」
シェリルが柔らかな微笑みを浮かべて言う。ソフィアは落ち着かない様子で、視線を彷徨わせた。
「怖いとは思います。でも、その。……あんなに求められたのは、初めてで。だって私は、女の子らしくないって……家族からも、町の人たちからも、そう言われて育ってきましたから。私を女の子として見て、求めてくれる人は、ジルが初めてなんです」
その言葉に。シェリルは笑みを深めて、言葉を落とした。
「そう。それならあなたたちは、お似合いよ。ジルヴェストもきっと、初めてだったと思うから。皇帝としての彼を見ずに、真っ直ぐに彼自身を見てくれるような人と会うのは」
「そうなのですか? でも、シェリル様やアドレイド様がいらっしゃるのに……それに、オスカー様も」
ソフィアは何も考えず、その名を挙げた。シェリルとアドレイドが、同時に目を伏せる。消え入りそうなほどに小さな声で、シェリルはそっと呟いた。
「……そうね。でも私達は皆、生まれた家からはどうしたって離れられないわ。コンドレンもミルワードもアッシャーも、皇帝のために……皇帝を支えるために存在している。その事実は変えられないの。私達がどんなに努力しても、ジルヴェストはその背後に家の思惑を感じてしまう。だから駄目なのよ、私達では」
ソフィアはその言葉で、ようやく気づいた。アドレイドとシェリルは彼女を信頼し、そして期待しているのだと。
「……私に出来るでしょうか。お2人にも、出来なかったことが……」
「難しく考えなくていいわ。あなたはただ、ジルヴェストの側にいてくれればいいの。そして時々は今日のように、あの人の背を押してあげて。あなたになら、出来るわ。私達も協力する。……忘れないで、ソフィア様。家の思惑とは別に、私達は個人として。あなたとジルヴェストの味方でいたいと思っているから」