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訪れし波乱の日(前編)

様々な思惑が噛み合った結果として、ソフィアの周囲は比較的平穏だった。とはいえ危険がないわけではない。食事は全て、毒が入れられないようにナディアが作って持っていく。夜はいつも、ナディアとジルヴェストが協力して、その眠りを守っている。そんな日々を繰り返して、やがて彼女は(とこ)()せった。


「そろそろ、お生まれになる頃でしょう」


老いた医師は、彼女の腹に触れながらそう言った。医師の隣で話を聞いていたジルヴェストが、目を細めて問いかける。


「予定としてはいつ頃になる?」


「そうですね……。もう2、3日もすれば確実かと」


医師が考え込みながら答える。ソフィアは寝たまま、ジルヴェストの方に顔を向けた。


「ジル……私なら1人でも大丈夫だから、あなたは仕事を優先して」


か細く、小さな声。その言葉とは裏腹(うらはら)に、心細そうな目をした彼女の手を握って、彼は優しい声をだす。


「俺の愛しいソフィ。お前は本当に、優しい女だな。俺に気を使わなくてもいい。側にいてほしいのなら、そう言え。時間はいくらでも作ってやる」


「…………うん」


初めての妊娠。ナディアと医師の助けがあるとはいえ、心細いことには変わりない。それ故に、ソフィアは素直に頷いた。


「頼りにしてるね、ジル。私の、大好きな人。……この子も、あなたに会える日を待っていると思うわ」


膨らんだ腹を愛おしげに見つめて、彼女が微笑む。ジルヴェストはその表情を目にして、胸の中がいっぱいになった。アドレイドやシェリルに子供ができた時は、彼は王宮で報告を受けただけだった。2人も彼に付いていてほしいと言うことは1度もなく、本当に事務的な関わりのみで終わったという印象しかない。それが今は、生まれる前からこうして楽しみにしている。


(……ソフィア……俺の大切な妻。お前との子が、俺には最も愛おしい。俺は……)


皇帝の使命より、自分の欲を優先しそうになる。そんな己に戸惑いながらも、彼は少女に溺れていた。


「……ジル? どうかした?」


急に黙ってしまった彼に、彼女は不安そうに声をかける。彼はふわふわとした気持ちのまま、口を開いた。


「……いや。お前との子が生まれたら、何をしてやろうかと思っていてな。お前は何を望む? 俺はお前と子供の(ため)なら、どんなことでもしてやるが……」


「え? ……ええと、そうね。私は今のままでも、十分満足してるけど。この子もきっと、私と同じよ。特別な地位なんて必要ない。そもそも、あなたの子供だというだけで、この子は十分に特別なんだから……それ以上のものは、()らないわ」


少女はそう言って笑みを深める。彼女とて、皇帝の子を生むことの意味は理解している。ただ守られるだけの子供ではないのだと。その事実を突きつけられて、ジルヴェストは固まった。

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