護衛選び(後編)
「妃の警護として連れて行くのであれば、女騎士を選ぶべきでしょう。何かご希望などはありますか」
「……ええと」
アッシャー公爵から面と向かって質問されて、ソフィアは答えに迷った。
「希望と言われても、その。私は何も分からなくて……」
戸惑いと共に向けられた視線を受けて、ジルヴェストが考え込む。その横で、オスカーが気楽な調子で口を開いた。
「ソフィアちゃんには、あんまり騎士らしくない子の方が合うかもね〜。友達に選んであげるんでしょ。ベラみたいなタイプだと、逆に緊張しちゃうんじゃない?」
その言葉を聞いて公爵は眉間にシワを寄せたが、ソフィアは納得したような顔で頷いた。
「……そうですね。今は私もベラさんがいてくれることに慣れましたが、最初は凄く戸惑ったので……カトカ様には、もっと親しみを持ってくださる方の方が良いかもしれませんね」
彼女の返答に、公爵は難しい顔をする。ジルヴェストがソフィアを見据えて告げた。
「ソフィア。この城で働く騎士は皆、皇帝と国のために剣を捧げている。例外はそこの馬鹿くらいだ。それでも不真面目な騎士を探すというのなら、止めはしないが……お前の望むような働きを、してくれるかどうかは分からんぞ」
「……うん、分かってる。不真面目な人が良いとかじゃなくて、その。ベラさんも良い人なのは分かるけど、あまりお話してくれないから……明るくて、話し好きな人がいいかなって。そう思っただけだから」
ソフィアは彼の言葉に頷いて、自分の思考を口に出す。公爵が表情を変えずに言った。
「そうでしたか。申し訳ありません、ソフィア様。ベラは人付き合いが苦手なわけでは無いのですが、何しろ生まれてから今日まで、剣術以外に興味を持ったこともなく……陛下に請われて貴女様の護衛となるまで、同性と関わった経験も少ないものですから。貴女様に面白みが無いと思われてしまうのも、仕方のないことでしょう」
「……い、いえ別にそんな!」
ソフィアは慌てて否定した。彼女はベラに、文句を言いたいわけではない。
「ベラさんは、優しい人ですし……真面目すぎるのも、私は嫌いではありませんから。あまり気になさらないでください。同性との関わりという点では、私も人のことは言えませんし」
ソフィアは姉たちとは年が離れている。だから実家にいた頃に、兄に遊んでもらったり弟の世話をした経験はあれど、姉たちに可愛がられた思い出はほとんど無かった。それもそのはず。姉たちはソフィアより先に、他の国に嫁いでしまっていたのだから。外で遊ぶのが好きだったからなのか、遊び相手も女性より男性の方が多かった。そんな話を、懐かしそうに喋っている彼女の側で。ジルヴェストは両手を強く握り込んで、彼女の横顔を見つめていた。