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騎士の報告(前編)

それはある意味、問題とも言える言葉だった。ベラが一瞬、とても渋い顔をする。


「……陛下。貴方様のお気持ちは分かりますが、それは流石に言い過ぎではありませんか。外で、誰かが聞き耳を立てていないとも限りませんし……」


その進言は、アッシャー家の者としての言葉だと理解して。ジルヴェストはため息をついた。


「……相変わらず細かいことを気にするな、お前は。どんな言葉も、行動に移さなければ同じだ。……分かっているとも。俺が本当にソフィアを優先すれば、それは国を傾けることに繋がりかねないと。俺は理解している。…………それでもと、思ってしまうがな」


ジルヴェストはソフィアの真横に椅子を持ってきて、そこに体を投げ出すようにして座った。ソフィアがじっと、彼の目を見つめる。


「……ねえジル。私ね、きっと……あなたが皇帝でなかったとしても、貴方の事を愛していたわ。だからいいの。特別扱いなんてしないで、あなたの奥さんの1人として扱って」


小さな声で、彼女が呟く。ジルヴェストは目を細めた。


「……ソフィア。お前は知らないのだろうが、俺はお前に出会うまで、後宮(ここ)にはほとんど来なかった。アディが跡継ぎを身籠(みごも)り、シェリィにも娘が生まれて。俺の仕事はなくなったと、そう判断したからだ。分かるか、ソフィ。皇帝()が後宮に来ること。それ自体が特別なことで、お前だけが例外だ。……最初から、お前は俺の唯一だった。お前が嫌がるのなら無理強(むりじ)いはしないが、そうでないのならこのままずっと。俺に愛でられる花として、そこにいてくれ」


淡々と告げられる言葉を聞いて、ソフィアは息を飲んだ。心が浮き立つような、柔らかい恋の感情をようやく自覚したばかりの彼女にとって。ジルヴェストが向けてくる熱く重い感情は、少し重荷になっていた。


(……怖い。ジルのこと、好きなはず、なのに。どうしてこんなに、恐ろしいと思ってしまうんだろう)


室内を沈黙が支配する。その静寂を破ったのは、扉の外から聞こえてきたナディアの声だった。


「陛下。貴方様に報告すべきことがあると言って、若い騎士が訪ねてきているのですが。通してもよろしいでしょうか」


ジルヴェストがサッと立ち上がる。その立ち居振る舞いは、それまでの気だるげな態度とは似ても似つかない、完璧な皇帝としてのものだった。


「ああ、構わない。通してくれ」


彼の返答を受けて、ナディアが扉を開ける。扉の外には若い騎士が立っていた。騎士は真っ直ぐに皇帝を見つめて、その場で正式な礼をする。


「お(くつろ)ぎのところ、まことに申し訳ありません。陛下に命じられた調査が終わりましたので、ご報告に参りました。この数ヶ月の間に、孤児院で子供を買った貴族は4名。アドラム男爵とペンフォード子爵、デーニッツ伯爵にザルデルン伯爵でございます」

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