お茶会(前編)
シェリルの部屋は、ソフィアの部屋より広かった。壁には棚が取り付けられており、棚の中には本が並べられている。
「あ、お母様!」
「おかえりなさい、お母様」
シェリルがドアを開けた瞬間に、椅子に座っていた幼い子供たちが入口の方に目を向けた。そして椅子を立って、シェリルの下に駆け寄ってくる。
「ただいま、クレア。リリーに本を読んであげていたの?」
「うん。だって私は、リリーのお姉さんだから」
シェリルは駆け寄ってきた娘を抱きしめて、頭を撫でながら話しかけた。クレアと呼ばれた女の子は、母の腕に抱かれた状態で嬉しそうに笑っている。彼女の後からゆっくりと歩いてきた女の子は、シェリルの後ろにいるソフィアを見て首を傾げた。
「お母様のお友だち? 初めまして、リリーです」
リリーと名乗った少女が、ソフィアを見上げて一礼する。ソフィアは膝を折って、彼女に目線を合わせた。
「初めまして。私はソフィアよ。よろしくね」
リリーが無言で頷く。シェリルはクレアを抱きしめたまま、2人に向かって声をかけた。
「入り口で話し続けるのもなんですから、部屋に入ってくださいな。お茶もお出ししますから」
「私、お手伝いをするわ。まかせて、お母様」
クレアが胸を張る。シェリルは彼女の言葉に頷いて、その手を引いて外に出た。リリーはソフィアの手を取って、室内に彼女を招き入れた。
「どうぞ、ソフィア様」
「ありがとう」
リリーが椅子を引いて、ソフィアに座るように促す。ソフィアは笑顔で椅子に座った。リリーはソフィアが座った後に、右隣の椅子を動かした。
「そちらの騎士様も、どうぞおすわりくださいな」
「いえ、私はこのままで構いません」
ベラは首を横に振った。ソフィアが横から口を出す。
「ベラさん。私からもお願いします。私たちはお客さんなのですから、お客さんらしくしなければならないでしょう?」
「そうでしょうか。……分かりました」
ベラが戸惑いながら着席する。リリーは満足げな様子で、机の上に置いてある本を閉じた。そして本を棚に入れてから、ソフィアの左側に座る。
「ソフィア様。お待たせしました」
シェリルが扉を開けて、室内に声をかける。クレアはお茶が乗った台を押して、部屋の中に入ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう」
2人の子供たちは、どちらもおとなしくて可愛らしい。そのことを微笑ましく思いながら、ソフィアはシェリルに話しかけた。
「いい子たちですね」
「ええ。私の自慢の娘ですから」
シェリルはどこか自慢げだ。それはそうだろうと、ソフィアは心の底から納得した。