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【閑話】 オルグレンの酒場(中編)

酒場がざわつく。宿屋の主人は、真っ青な顔で男を見ていた。


「なんだ貴様、いきなり……」


騎士の1人が立ち上がりかけて、別の騎士に制止される。一行の中で最も若く見えるその男は、柔らかな笑みを浮かべていた。


「これはどうもありがとう。飲み比べもいいが、僕は君と話がしたいな。君は、オルグレンの人なのかい?」


「あ? まあそうだが、話なら飲み比べで勝ってからにしようじゃねえか。なあ、兄さんよ」


男は気安い口調で言った。周りにいた騎士たちが顔をしかめる。そんな中で、若い騎士は穏やかな笑みを崩さずに告げた。


「では約束だ。僕が勝ったら、僕たちをこのオルグレン領の一員として認めてくれ」


そう言って彼は席を立つ。(さかずき)を席においたまま。そしてカウンターに歩み寄った彼は、恐縮している主人の耳元で囁いた。


「すまないが、彼が飲んだのと同じだけの酒を出してくれないか。どうせ勝負するのなら、同じ条件でなければ意味がない」


主人は目を丸くした。


「し、しかし……騎士様はお仕事中なんじゃ……」


釣られて小声で返した彼に、若い騎士はいたずらっぽく笑いかけた。


「いやあ、実を言うと僕は堅苦しいことが苦手でね。周りの目もあって、今まで遠慮していたんだ。だから大丈夫さ。こんなことで、陛下に報告なんてしないから」


「そ、そうですか……? …………分かりました。そんなに(おっしゃ)るなら、お出しします」


そんなやり取りの後で、それまで彼らが使っていたものよりも大きな酒杯が用意され、それに並々と果実酒が注がれる。騎士は渡されたそれを一息に飲み干して、酒場に響き渡る声で宣言した。


「それでは改めて名乗るとしようか。僕はヴィルマー。アッシャー公爵の三男で、騎士団の隊長を務めている。この名と陛下の名誉にかけて、僕は必ず君に勝つよ」


銀色の兜を外して、その下に隠れていた長い金髪を(なび)かせながら。彼は人好きのする笑みを浮かべた。男が面白そうに笑う。


「ほーん? なかなか言うじゃねえか。俺はエリック。港の酒場で主人をやっているだけのケチな男だが、若造に飲み比べで負けたら半年はからかわれちまうからな。こっちも本気でやらせてもらうぜ」


宿屋の主人は頭を抱えた。彼の妻がその横で、果実酒の瓶を取り出す。彼女は瓶をカウンターに置いて、エリックに向かって声をかけた。


「飲み比べなんだろ。チマチマ出してるわけにはいかないからね。アンタもこっちに来な、エリック。このアタシが見届けてやるよ」


エリックは自信満々の顔でカウンターに戻って、女将から騎士が持っているのと同じ大きさの酒杯を受け取った。酒場に集まった客たちが、恐怖と好奇の混じった視線を彼らに向ける。ヴィルマーと名乗った騎士はその視線を受け止めて、自然体で立っていた。

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