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疎外感(後編)

その出会いは、生まれる前から決められていた。運命でも何でもない、ごくありきたりなものである。


「……確かに、昔からの付き合いではあるが」


故にジルヴェストは、複雑な顔をして言った。


「コンドレンとミルワードは、皇太子と同年代の娘が生まれたことを知ってすぐ、妃教育に力を入れた。おかげで2人とも、幼い頃から妙に大人びていたものだが……振り返ってみれば、俺も同じようなものだったな」


帝国の正妃は、何も必ず両家の娘がなると決められているわけでもない。その証拠に、今の皇太子であるアーサーは当時のジルヴェストと同年齢の4歳だが、彼の遊び相手は主に妹のアリスである。たまにクレアとリリーとも遊んでいるが、それだけだ。まだ彼の年齢に見合う有力貴族の娘はおらず、婚約者の席も空いている。ジルヴェストとしては早いうちに目星をつけておきたいのだが、こればかりは天に任せるしかなく、気苦労の種にもなっている。ともかく。


「俺と彼女たちの間には、友人以上の関係はない。だからお前は、何も心配しなくとも……」


「うん、知ってる」


ソフィアは彼の言葉を遮って、何とも言えない笑みを浮かべた。愛されていることは分かっている。だからこれは、彼女の単なる我儘(わがまま)だ。


「ただ、少しね。気になったの。アドレイド様とシェリル様は、私よりずっとジルのことを分かってるみたいで……私だけ、置いていかれたような気分になったから」


ソフィアはジルヴェストと目を合わせようとせず、(うれ)いをびた目で言った。その言葉を聞いた彼は、座ったままの彼女に覆い被さるような形で抱きついた。


「それは違う。……俺はお前が思うような、完璧な男ではないからな。失望されることが怖いんだ」


文武両道。眉目秀麗。そんな言葉で形容(けいよう)される彼は、彼女にだけ聞こえるように、小さな声で(ささや)いた。彼女は耳を疑った。


「……ジルは凄い皇帝でしょ。何でそんなに自信がないの」


「ソフィアが、俺の何を気に入ってくれているのか分からないからな」


彼は甘い声でそう返した。ソフィアが顔を真っ赤にする。


「俺の可愛いソフィ。俺にとっては、お前がいつも1番だとも。俺もお前も、まだまだ分からないことは多いだろう。だがそんなことはどうでもいい。……頼むから、俺のことを見ていてくれ。俺はお前が側にいると思うだけで、どんなことでもできるのだから」


優しい声音で言い添えられて、ソフィアはぎこちない動きで横を見た。彼女と目が合った瞬間に、ジルヴェストはとっておきの笑顔を見せる。


「いい子だ、ソフィ」


「……何が分からないことは多い、よ。ちゃんと分かっているんじゃない」


彼の顔と声に彼女は弱い。ジルヴェストは明らかに、そのことを意識した態度だった。そんな彼に対して、少女はまだ赤い顔で、精一杯の皮肉を返した。

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