表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/226

処世術(前編)

そんな話をしているうちに、日はいつの間にか傾いていて。窓の向こうから、赤い日差しが差し込む時間になっていた。


「……もうこんな時間なのですね。お伝えしたいことは他にもありましたが……」


アドレイドは窓の方に視線を向けて、不安そうな声で言った。シェリルが楽しそうに笑って口を開く。


「アディはもう……そんなに心配しなくとも、ソフィア様なら大丈夫でしょう。前に開いたお茶会でも、しっかりとした受け答えをなさっていたもの。ねえ、ソフィア様?」


「え?! え、ええと……自信はありませんけれど、精一杯頑張ってみます!」


突然水を向けられたソフィアが、少し慌てた様子で頷く。そして彼女は、扉の方を確認した。アドレイドが閉めた後は、外から叩かれることもなかったけれど。


「……あの時にいらっしゃった方々は、今はどうしているのでしょうか」


その言葉を耳にして、シェリルは苦笑を浮かべた。おそらくは。


「ベラに追い払われて、そのまま自分の部屋に帰ったのでしょうね。彼女たちの父親は、最高位でも伯爵家。公爵家であるベラの家とは、比べることもできませんから」


その言葉に驚いて、ソフィアは目を見開いた。彼女の口から、震えた声が()れ聞こえる。


「ベラさんが……公爵家……? いえ、それより……アドレイド様は、あの場にいた方々全員の名前と顔を覚えていらっしゃるのですか」


アドレイドが困ったような顔をする。彼女はシェリルに、同意を求めるような視線を向けた。


「だってそれは、ねえ……? 私達には、印象深い方々でしょう?」


「ええそうね。ジルがアディをエスコートする(たび)に、内心の不満を隠して優雅に振る舞っていらしたもの。よく覚えているわ」


シェリルは万感(ばんかん)の思いを込めて頷いた。彼女たちは昔から、同じような苦労をしてきた仲である。


「中心人物のディアナ様は、クラム男爵の1人娘。その美貌(びぼう)は並ぶ者が無いと言われたほどだけど、レイラ様が社交界にいらしてからは比較されることが多くなって、本人も気にしていたわ。当のレイラ様は大商人であるグラッセ・アドラムの娘で、父親が爵位を持っていないこともあって表面上はディアナ様を立てていたけれど。内心では、自分の方が優れていると思っていたでしょうね」


そこまで一息に言いきって、シェリルは深いため息をついた。ソフィアは呆気にとられていたが、しばらくしてから遠慮がちに問いかけた。 


「……その。もしもご迷惑でなければ、社交界のことをもっと教えてはいただけませんか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ