奇妙な訪問(後編)
「……それ、どうやって気をつければいいんですか?」
ソフィアが冷や汗を浮かべている。シェリルはそんな彼女を安心させるために、笑顔で話を続けた。
「それは簡単ですよ。飲み物も食べ物も、先に毒見としてベラに食べさせれば良いのです。あの人数であれば、お茶会も立食形式の軽いパーティのようなものでしょうから……それが出来る機会は、いくらでもあるかと」
ソフィアは困り顔になった。でも、それでは。
「……もし毒が入れられていたら、ベラさんを危険に晒すことになりませんか?」
シェリルとアドレイドが、同時にソフィアの方を見た。アドレイドが淡々とした声を出す。
「毒見役とはそういうものです。もしもそれで倒れたとしても、ベラは貴女様を守れたことを誇りに思うことでしょう」
ソフィアは目を伏せた。そんなことは、彼女もよく分かっている。それでも。
「私は、私のせいで誰かが傷つくのは嫌なんです」
「……ソフィア様。それなら尚更、毒見はしていただくべきですわ」
低い声で、アドレイドが告げる。シェリルも真剣な顔をして言った。
「そうですよ、ソフィア様。もしもあなたが倒れたら、ジルは間違いなく暴走します。まして命を落としたりしたら……。そのお茶会に同席した者は全員、処罰の対象となるでしょうね」
「そ――」
そんな馬鹿なと言いかけて、ソフィアは思わず口を閉ざした。目の前の女性たちは、本気で彼女に忠告している。そのことは、2人の表情を見ただけで理解できたから。
「……そこまで、ですか?」
結局。長い時間をかけてソフィアが口にできたのは、そんな問いかけだけだった。2人は迷わず頷いて、同時に深いため息をつく。
「ジルのことですから、貴女の前ではそんな姿は見せないでしょうね。でも彼は、貴女のこととなると……皇帝ではなく、1人の男となってしまう。分かりますか、ソフィア様。正妃よりも大切にされる寵姫という存在は、本来であれば争いの火種にしかならないものなのですよ」
アドレイドは鋭い眼差しをソフィアに向けた。ソフィアが真剣な表情を見せる。
「だから、お2人は私に会いに来たのですね? 私がどんな人間か、見極めるために」
「そうですね。私とシェリィは、帝国を支える柱であり……皇帝の無二の友として、彼に忠告することができる。そんな数少ない人物の内の1人ですから」
アドレイドはソフィアから一切目を逸らさずにそう告げた。その目を見たソフィアは、唐突に気づく。皇帝に、言うべきことを言える人間。その中には、自分も確かに入っているのだと。