旋律を呼ぶ
夜空が旋律を呼んでいる。
ちょっとした買い物に出掛けて、随分前の事になるがそのコンビニで新作のゲームを予約した時の事を思い出した。ハードが『旧世代』ならば、その全盛に熱中していた自分もそうなのかも知れない。アクションとシミュレーションの間、臨場感たっぷりのCGが売りのスマッシュヒットした作品。なぜ急にその作品の事を思い出したのかと言えば、この間現行のハードでの続編の発売が発表されたからだ。
『回帰』
が新作のテーマ、コンセプトだそうで、開発中の動画にちらっと映ったキャラクターがまさに自分がプレイしていた作品のそれを彷彿とさせ、ストーリーもどことなくリバイバル感が漂う。ネットの記事でそれを読んだ時に湧きおこった気持ちはもしかしたら世代共通のものなのかも知れない。当時一緒にゲームをプレイしていた友人曰く。
「面白いんだけど、途中から『作業』なんだよな」
確かにそれは言えていると感じる。特に今は。その作業を面白いと思うのか、苦行と思うかでゲームの意味は変わる。アイテム入手にあたって複雑かつ、厳密な条件を課されると当然試行回数は膨大になってゆく。お世辞にもゲームが上手とは言えない凡庸なプレイヤーである自分にとっては、そんな条件をクリアして入手できるアイテムはそれこそ宝物のような意味合いを持ったし、難所を巧く凌いだときには多少の脳汁は出たと思う。
思い出の中のその自分の姿と、今を引き比べながら「のり塩」のポテトチップスを手に取る。コントローラーを握りながら、時折それをつまんでいた為に持ち手がベタベタとしていた記憶もある。味の好みは大して変わらないが、食べ方はだいぶ変わった。スマホの小さい画面でツッコミどころ満載の動画を閲覧していると、ふと、食べたくなっているのだ。
レジ付近までやってきた時、一人の高校生くらいの男子がいそいそと入店するのが見えた。ちらっとしか確認しなかったけれど、雑誌コーナーにそそくさと向かい漫画雑誌を探している様子。そういえばあの辺りには以前決まってゲーム雑誌が置いてあった筈だが、いつの頃からかとんと見かけなくなっている。WEB上で情報を随時更新して行けるという事と、紙媒体の需要の低下が影響しているのだろうか。無いなら無いで、何となく寂しく感じてしまうがそれは郷愁というものかも知れない。
来た時も思ったけれど、外に出てみて夜空がこの上なく澄んでいると感じた。月夜ではないが、星が散りばめられているように瞬いていて、見上げた一瞬でも心地よさを感じる。旧世代のハードではあるものの表現された作品世界の夜空に心をときめかせていた自分は確かにいた。夜の世界の何度も聴いたBGMが今更ながらのように胸の中でリフレインしている。情緒の幾らかは、当時のままとは言えなくなってはいるけれど、弦楽器の響きや、その世界を駆け抜けてゆく足音は今でも。
程よい間隔で車が通り過ぎてゆく。それが走り抜ける先に引き続いてゆく音を確かめながら、妙に懐かしい気分に浸っている。
<たぶん、『欲しく』なっているんだろうな>
ようやくと言った感じで気付いて、ちょっとだけ可笑しくなった。