6.エタフェスが作る物語
エターナルフリーマーケットフェスティバル当日。
フルーリリのブースは、会場の中でひときわ目立っていた。
フルーリリの美容品店『シェリフル・ビューティ』は、いま王都中の貴婦人達から熱い支持を受けている。
人気が高過ぎて、貴婦人達でさえなかなか入手する事が出来ないという高級化粧品が、学生の肌に合わせた軽い使用感で格安で販売されるということだ。
当然、女子生徒達の熱い注目を集めていた。
エタフェス開催前から注目を集めていたお店は大盛況だった。
売っても売ってもお客様の行列は続いているが、女生徒達の素晴らしい働きのおかけで、商品は十分用意出来ている。
やる事がなくて困っていた男子生徒達にも声をかけて、列を捌く手伝いなどを頼んでいるので混乱もない。
さらに女生徒全員お揃いの、若さ溢れるキュートなワンピースが皆の目を引いていて、その視線も好意的なものだった。
準備期間中、手伝いの子達と一緒に過ごすうちに、フルーリリの言葉使いもフランクになった。
ブースのテーブルに豪華なお弁当を並べながら、皆に声をかける。
「午前の部はここまでにして、私達もお昼休憩にしましょう。カスティル家特製のお弁当よ。みんなたくさん食べてね」
キャーと歓声をあげる女生徒達や嬉しそうな男子生徒に、豪華なお昼ご飯を振る舞うことで手伝いを労った。
今日の休憩も噂話に花が咲く。
「聞いた?今日のフェス用に生徒全員に配られた、このコサージュの噂。フェス後に告白を考えている子は、これを好きな人に渡すみたいよ」
その子はそう話すと、自分の胸につけたコサージュを指さす。
「告白を受け入れる時は、受け取ったコサージュを明日からも身につけるんだって」
キャー!と歓声が上がる。
「最近のカップルの流行りは、相手の色のイヤリングを片耳だけ付けるそうよ」
「確かに片耳だけのイヤリング、よく見かけるよね」
「左耳に付けると、ずっと一緒にいられるらしいわ」
キャー!素敵!と歓声が上がる。
男子生徒達はそんな女生徒の勢いに押されているが、それでも楽しそうにしていて、そんなフルーリリのブースを他の生徒達は皆、羨ましそうに眺めていた。
フルーリリとシェリー、そしてケネスは少しだけ皆と離れた場所に座って、みんなの話に聞き耳を立てている。
――勿論ケネスを除いて。
「あの話はきっと、魔法使いの忠誠ピアスから来てるわね。生涯の忠誠を立てた者から送られた石を、左耳に付けるのよ」
その話に、フルーリリはシェリーの左耳を見る。
「私は誰にも忠誠を誓うつもりはないから、何も付けてないわ。右耳は自分の魔力に合った魔石のピアスを付けてるけど」
シェリーの右の耳には小さなピンクの石が光っている。
「それ、魔石だったのね。シェリーに似合う宝石だと思っていたわ」
「ふふ。ケネスも右だけね。あの子は薄いグレーの魔石よ。髪に隠れてるから気づきにくいけどね」
チラリとケネスを見ると、興味が無さそうにケネスは肩をすくめただけだった。
賑やかな昼食が終わり、昼の部の準備を始めた時に、生徒会役員の皆が揃ってフルーリリの前に立った。
どうやら巡回中のようだ。
ミリアム嬢に声をかけられる。
「フルーリリ様。こちらの化粧品販売ですが、少々利益に走り過ぎているように見受けられます。生徒会としては見逃す事が出来ません。エタフェスの主旨をご理解いただけていないようですね」
その言葉に、フルーリリは内心ギクリとする。
『流石に儲け過ぎたわね。目を付けられたようだわ。この辺で引くのが正解ね』
ミリアムの言葉に、素直にお店の撤収を伝えようと口を開いた時。
エタフェスを手伝ってくれている生徒達が声をあげた。
「フルーリリ様は利益のために動くような方ではありません!」
「やる事が見つけられなかった皆んなの事を考えて始められたのですよ!」
「この化粧水だって利益も考えず、こんなに安く販売されています!」
「この制服だって、私達の為にデザインまでして下さったのです。フルーリリ様ほど困った方に手を伸ばしてくれる方はいませんわ!」
生徒達の思わぬ反論に、ミリアムが驚いた顔をした。
驚いたのは、フルーリリも同じだった。
シェリーも、更にはケネスも同じだが。
――そんな綺麗な心で始めた販売ではない。
そんな生徒達をミリアムが諭す。
「今日は、皆さんのように金銭的に困っている方のための行事なのですよ。このような贅沢品こそ、皆さんに配るべきものでしょう?」
その言葉に、ミリアムを見つめるフルーリリの目が冷ややかなものに変わる。
平民を貶める事は、前世の自分を貶める事だ。
「ミリアム様。その言葉がどれだけ失礼な言葉か、お気づきにならないのですか?そのような考えは、貴族の傲慢さとも言えるのではないでしょうか。
私は施しを喜ぶような方ではなく、自分を大切にするような方にこの化粧水を使ってもらいたいと思っています。その気持ちが美しさに磨きをかけるのですから。
勿論、今日購入された物を後悔する方には、いくらでも返品返金対応を受け付けますよ」
フルーリリはそう話すと、ミリアムの後ろに立つ生徒会役員達にも目を向けた。静かな、温度のない目で皆を見つめる。
『本当に失望させられるわ…』
会長と副会長の顔がこわばる。
青ざめたフレドリックとスヴィン、そしてエリックを見て、フルーリリは残念そうに小さくため息をついた。
とても小さなため息が、その場の空気を凍らせる。
フルーリリはもう一度口を開いた。
「この化粧水は、とても価値あるものです。こちらにいる、計り知れない才能を持つ魔法使い様がお手伝いしてくれた、特別な物なのです。
本来ならば、このような価格で売ってよい物でもないのですが、生徒会の皆様が開いた、今日という日のために協力して下さったのですよ」
使う言葉が押し付けがましい。なぜならこれは仕返しだからだ。
それでもミリアムは引き下がらない。
「そんな才能ある魔法使い様ならば、その才能は贅沢品に使って良いものではありませんよね?生徒会に入っていただいて、共に学園を良くしていくべきだと思います」
ミリアムのその言葉に、シェリーとケネスがウンザリした顔になる。
フルーリリは何も言わずに移動して、シェリーの前に立った。
そして自分の耳に付けていたイヤリングを片側外し、シェリーの左耳に付ける。
それから今度はケネスの前に立つと、もう片方のイヤリングも外して、ケネスの左耳に付けた。
フルーリリは、ミリアムの方を振り返り微笑みかける。
「ごめんなさいね、ミリアム様。
この才能ある2人の魔法使い様は、私の専属の、私だけの者なのですよ。申し訳ありませんが、2人には生徒会のお手伝いをさせる事は出来ませんわ」
そう話して、フルーリリがにっこりと笑うと、手伝いをしてくれた生徒達だけではなく周りにいた生徒達もが歓声をあげた。――それはもう響くような大歓声だった。
ミリアムの言葉を傲慢と捉えた生徒達は、フルーリリの言葉に胸がすく思いがしたからだ。
「キャー!素敵!!」
「フルーリリ様、私はこの化粧水を買いたいです!」
「カッコいいぞ!」
「流石シェリフルだわ!」
固まる2人の魔法使い達。そして、わあああと盛り上がる楽しげな生徒達と、地獄のような生徒会役員達との温度差が、とても印象深い日となった。
顔色を無くして呆然と立ちすくむエリックを見て、ケネスは流石に彼に同情した。
『あの煩い女1人のために、生徒会ひとまとめにして切り捨てられるとは、何て不憫な奴だ。アイツは本当に残酷なやつだ』
ケネスはそう思いながら、左耳のイヤリングをそっと触る。それはフルーリリの瞳の色と同じ、アクアマリンのイヤリングだった。




