14. ヒロイン×ヒーローのティータイム
「それで馬車では何の話をしていたんだ?」
フレドリックが、皆がテーブルの席についた途端尋ねた。相当気になっていたらしい。
『仲間はずれにされたようで寂しいのね…』
フルーリリは失礼な思考でフレドリックを見つめる。
そしてスヴィンとの馬車での会話を、フレドリックにも話した。街にお店を構えて、シェリー監修の化粧品事業を始めようとしている話だ。
その事業の話に、フレドリックも興味を持ってくれたようで、商品が完成した時はタイロン公爵家でも使ってみると約束してくれた。
事業の成功は、始まる前から約束されたようなものだった。
「最近、シェリーとお店の計画を立てるのが面白くて。他にもカフェの出店も考えているのですよ。可愛い制服を着た可愛い店員さんがいれば、お店の成功は間違いないですから」
『可愛い店員さん』の言葉でシェリーに視線を向けてにっこり笑うと、シェリーも嬉しそうに言葉を返す。
「そうね。私がお店に立つだけで大成功ね」
「ふふ。可愛い制服を用意しなくっちゃ。可愛いカフェの制服を――制服…」
そう呟いたフルーリリは、何かを考えるような様子を見せた。しばらく考え込んだ後、カッと目を見開く。
そして自分のカバンの中から大きなメモ帳を取り出して、一心不乱に何かを描き出した。
カリカリとフルーリリのペンを走らせる音だけが部屋に響く。フルーリリのあまりに真剣な様子に、誰も声がかけられない。
やがてフルーリリが満足したように、ふうと大きく息をつき顔を上げた。そのタイミングでスヴィンが声をかける。
「何を懸命に描かれていたのですか?」
「ふふ。カフェの制服という言葉で閃くものがありまして、制服のデザインを描き出してみました。…シェリー、こういうのはどうかしら?」
シェリーの前に描いた制服デザインを見せると、シェリーは目を輝かせた。
「いいわね、これ!最高よ!フルーリリったら服のデザインも出来るのね。この服斬新だわ…私に似合いそう」
「ふふ。シェリーをイメージして描いたのよ」
フルーリリのデザインした服。
興味を引かれて2人がメモ帳を覗き込むと、そこには見たことのないような服が描かれていた。
とても可愛い服だが、少しスカートが短すぎる気がする。
それを口に出していいのかスヴィンが悩んでいると、同じ事を感じていたフレドリックが声をかけた。
「フルーリリ嬢。とても良いデザインだが、少しスカートが短すぎないか?」
「これでいいのですよ」
「そうよ。これが正解よ。この制服は私の魅力をより引き出してくれるわ。ウォーキングで引き締まったこの脚を惜しげなく見せるこのデザイン。最高よ、フルーリリ。貴女は天才だわ」
「流石シェリーね。私の狙いが分かってくれたのね。これは貴女の為に生み出された制服よ」
『シェリーの為に生み出された服』
そう。これは着る者を選ぶ服だ。
誰もが手を出していい代物ではない。中途半端な覚悟では挑むことすら許されない服。
――それはメイド服のお色気バージョン服。
前世で流行ったメイドカフェ。
そんなお店がある街は、迂闊に素人が近づいてはいけないような緊張感を含んでいた。…少なくとも自分にはそう感じられた。
お店の前で呼び込みをしているメイドさん達は、決して目を合わせないようにする自分には、見向きもしてくれなかった。彼女達に興味のない人間として捉えられていたのだろう。
だが違うのだ。
本当は彼女達が気になって仕方がなかった。彼女達のいるお店にも強い興味を引かれていた。
ただ仕事の取引先の人と歩いていたため、真面目な顔で通り過ぎる事しか出来なかった、それだけなのだ。
きっとあのお店は、通り行く者全ての心を惹きつけていただろう。
私の作るお店が目指すのはそこだ。
メイドカフェのメイドさん達が着る制服を見たのはその一度だけだが、そこは問題ない。自分はイメージしたものを絵に起こせる自信がある。
私は前世、絵もわりと得意だった。おそらくお菓子作りが得意だったのも、手先が器用だったからだろう。
仕事でちょこっとした絵を描く事もあったし、頭でしっかりイメージ出来たものは、だいたい絵に起こせた。
シェリー×メイドカフェ制服は、私にハッキリとしたイメージを作らせる。
これほど強くイメージを作れたら、後は簡単だ。それを絵として描き起こすのみなのだ。
「他にもこんな感じの制服もあるわよ」
シェリーの絶賛に気を良くして、サラサラと他のデザインも描いていく。
軽く描くうちに次々とアイデアが浮かび、取り憑かれたかのように一心不乱で制服を描き続けていった。
描き続けるうちに神経が研ぎ澄まされ、自分の世界だけに入っていく。
もう何も見えないし、聞こえない。
そして究極の制服が爆誕した。
これだ。
これこそが最強のヒロインアイテムだ。
このアイテムで次々と世の男どもを攻略していくのだ。その鍵となる言葉はこうだ。
「お帰りなさいませ!ご主人様!」
「「「え…?」」」
「えっ?」
フルーリリは、皆の驚く声で我に帰った。
どうやらまだ茶会は続いていたらしい。こほんと誤魔化すように咳をする。
「間違えました。『いらっしゃいませ、お客様』でしたね。…制服を考えていたら、お店の呼び声も一緒に考えてしまって………」
フルーリリは最後まで話す事も出来ず、真っ赤な顔をしてメモ帳の陰に隠れるしかなかった。
これは恥ずかし過ぎる。ご主人様って何なんだ。自分自身を殴りつけたい思いで、ぎゅっと目を閉じて現実逃避するしかなかった。
そんなフルーリリの姿に、フレドリックとスヴィンは胸を撃ち抜かれて身動きひとつ取れなかった。
『可愛過ぎるだろう…』
そのメモ帳で顔を隠そうとする姿など反則だ。
『お帰りなさいませ、ご主人様』なんて――そんな風に言われてみたい』
2人はぐっと口を噛み締め、口元が緩まないように気を引き締める。
『また意外なフルーリリ嬢を見てしまった。会うほどに引きつけられる』
フルーリリへの想いが深まる2人の男達を、じっとシェリーは見つめていた。
『本当に何て恐ろしい子なの。全く気のない相手を、計算することなく魅了していってるじゃない』
だけどたとえこの2人の男に告白されたとしても、全く心を動かしそうにない女。
何て残酷な女なのだろう。
――良いわね。好みだわ。
基本魔法使いは残酷な者を好む。
ダランソン師匠がフルーリリを好むように、私もこの子が気に入った。おそらくケネスがこの子に苛ついているのも、この子の性質に惹かれるのだろう。
ふふふとシェリーは楽しげに笑った。
「この最後のデザイン最高ね。これに決めましょう。フルーリリもお揃いで着ましょうね」
「え、ええ…」
恥ずかし過ぎてうわの空のフルーリリが応える。
それは超ミニ丈ワンピースにフリル付きの白いエプロンを重ねた、露出度高いカフェの制服。
そんな制服を着たフルーリリから、『お帰りなさいませ、ご主人様』と迎えられる自分。
想像するだけで身悶えて震える2人の男がいた。




