12.ヒーロー達からのお誘い
学園での休憩時間。
保健室に向かおうと廊下に出たフルーリリを、フレドリックとスヴィンの2人が呼び止めた。
席を立ってから話しかけられる事は初めてだったので、何か用があるのだろうと、フルーリリは2人に向き合った。
「フレドリック様、スヴィン様、何かご用でしょうか?」
ヒーロー2人が爽やかな笑顔を見せる。
「フルーリリ嬢、この前はご馳走になったな。お菓子もパンも絶品だったよ」
「本当にどちらも美味しかったです。毎日食べたいくらいでしたよ」
「ありがとうごさいます。そのように言っていただけて光栄ですわ」
どうやら2人は、改めて自分にお礼を伝えたかったらしい。ヒーローらしい丁寧な心遣いだ。
「では失礼しますね」
にっこりと笑い、あっさりと2人から離れようとするフルーリリを慌てて2人が引きとめる。
「フルーリリ嬢。お礼に茶会に紹介したいのです。本当は我が家に招待させてもらいたいのですが…」
「悪いな、スヴィン。ここは譲ってほしい。フルーリリ嬢、我が家に招待したい。スヴィンも招待してるんだ。今度の休みに一緒に来てくれないか?」
ヒーロー2人の誘いに、フルーリリは目を丸くする。
「お茶会ですか?」」
「フルーリリ嬢の屋敷に、私の馬車で迎えに上がりますよ」
スヴィンが和やかに申し出てくれた。
何という事だ。
ただお菓子とパンをお裾分けしただけだというのに…
屋敷に招待するだけではなく送迎付きとは、何と至れり尽くせりの気の配りようだ。
『ありがたいけど、自分には不要の気遣いだわ。若者は若者同士で集うべきよ』
「フレドリック様のお屋敷へのご招待と、スヴィン様のお迎えのお申し出、ありがとうございます。とても光栄です。…ですがお菓子もパンも、もともと思いつきで作ったものです。いつもお二人にはお世話になっていますし、私も何のお礼も出来ていないではないですか。お互いさまですし、お礼なんて結構ですよ。お気遣いなく。」
美しい微笑みで、やんわりと2人の誘いを断わろうとするフルーリリに、少し焦ったようにフレドリックが声をかける。
「もちろんフルーリリ嬢1人ではなく、保険医のシェリー嬢も招待したいんだ。彼女にも怪我を治してもらって世話になったからな」
フレドリックのその言葉に、フルーリリは考え込む。
『どうやらヒーロー達は順調にヒロインに攻略されているようね』
平民で保険医という立場にある彼女を、『怪我を治療してもらったから』という理由で、自分の屋敷に招待することは不自然なのだろう。
ここで私というキューピッドの力を必要としているらしい。
――そういう事なら力になるわ。
自分の本来の役割を思い出し、フルーリリは快く了承する事にした。
「そういう事でしたら。―はい。ご招待ありがとうございます。スヴィン様、お迎え宜しくお願いします。シェリーと共にお迎えお待ちしていますね」
フルーリリはにっこりと2人に微笑んで応えた。
「ありがとう。嬉しいよ」
「楽しみにしていますね、フルーリリ嬢」
2人のヒーローはホッとして、フルーリリに微笑みを返した。
フルーリリ1人の招待では、自分達の誘いはあっさりと断られてしまうだろうと予想はしていた。
しかし仲のいいシェリーの名を出せば、誘いを受けてくれるかもしれないとの算段でシェリーの名を出させてもらったのだ。シェリーには申し訳ないが、協力してくれた分、彼女にもよくするつもりだ。
2人のヒーロー達は、次の休日を楽しみにする事にした。
フレドリックとスヴィンの誘いを受けたその足で、フルーリリは保健室に向かい、早速シェリーにタイロン公爵家でのお茶会の話を伝える。
「シェリー、流石ね。フレドリック様もスヴィン様も、貴女の虜だわ。安心して。公爵家でのお茶会で、私は立派に2人の仲を取り持ってみせるわよ」
「まあ、あの二人が私のことを…?私って罪な女ね。うふふ」
おかしそうに笑うシェリーは、とても可憐だ。
フルーリリはそんなシェリーを見つめながら、『本当に私はヒロインを無事見つけられたのだ』としみじみと感じ入っていた。
シェリーもそんなフルーリリを見ながら、2人の男達がフルーリリを想っての誘いだと気づいてはいたが、教えるつもりは毛頭なかった。
その招待で、フルーリリと男達の距離を縮めさせたりはしない。あの高位貴族では、この目の前の女の面白さを引き出す事はできないだろう。
ありきたりな綺麗な恋愛じゃあ、51歳の自分を満足させる事なんてできやしないのだ。
「フルーリリ、お迎えの時間が決まったら教えてね。カスティル家に向かうわ」
そう言って、次の休日を楽しみにする事にした。
招待された日を迎える。
エリックはフルーリリに、今日の招待を断るようにずっと頼んできた。
だけど今日までずっと姉を説得し続けているが、シェリーのためだと行く事を譲らない。姉を止める事は出来なかった。
すでにシェリーは我が家に来てしまっていて、あとはクリスフォード家の迎えを待つだけとなっている。
エリックは、何もかも分かっていながら、この状況を楽しんでいる様子を見せるシェリーに殺意が沸く。
ギリッとシェリーを睨むが、睨む度にシェリーに喜ばれてしまう。その様子がエリックをとても苛立たせる。
不機嫌そうなエリックをフルーリリが慰める。
「リック、心配しすぎよ。大丈夫よ、フレドリック様もスヴィン様も紳士よ。女性に不自由のない方達だし、不埒な真似はしないはずだわ。もし万が一の事があったとしても、ダランソン先生から貰ったお守りがあるわ。きっと私を守ってくれるはずよ」
「……リリ姉さん、そのお守りって、鼻を3ミリ低くするだけの物だろう?タイロン公爵子息とクリスフォード子息から、そんな魔法が守ってくれる訳ないだろう?」
「確かにそうね。あの2人はとても鼻が高いから、3ミリくらいじゃ本人も気づかないかもしれないわね…」
「そういう事じゃないんだよ、リリ姉さん!」
リックの必死な呼びかけが全く通じる事のないまま、シェリーが話に割り込んだ。
「エリック、フルーリリには私が付いてるから大丈夫よ。私は攻撃魔法は使えないけど、美容魔法は使えるわ。いざという時には、彼の顔の油分量を増やしてテカテカにしてやるわよ」
「それも何にも役にも立たないじゃないか……」
シェリーの言葉に絶望しか感じないエリックは、肩を落とした。
「すごいわ!シェリー。それはとても恐ろしい魔法ね。そんな魔法をかけられたら、あぶらとり紙が手放せない肌になっちゃうわね。シェリー、貴女復讐の天才よ」
「もう、フルーリリったら。貴女いつも褒め過ぎよ。貴女の持つ、鼻を3ミリ低くする魔法と合わせたら、私達無敵よね」
「本当にそうよね。素敵だわ!私達に敵なしね」
「世界征服も夢じゃないわね!」
きゃっきゃっと2人の少女は盛り上がる。
はしゃぐ2人を微笑ましそうに見つめていたアンが、少女2人に声をかける。
「タイロン家の従者様がお待ちですよ。そろそろ玄関に向かいましょう」
エリックもはああと深いため息をついてから、諦めて2人を見送る為に玄関に向かった。
「リリ姉さん、なるべく早く帰ってきてよ」
「分かったわ。帰ったら一緒にお茶にしましょう」
心配症の弟の言葉に、フルーリリは優しく微笑んだ。




