表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/110

3. 転生少女の立ち位置②

食の伝道師の道は閉ざされた。

というより最初から隙間ぶんさえ開いていない道だった。


しかし、ひとつの所に立ち止まってる暇はない。

更なる可能性を模索するべきだ。




この世界は前世にはないものがある。

それが魔法だ。


治癒魔法もあれば、攻撃魔法もある。魔法で火や水、土や風を操る事もできる。

才能あるものだけが使うことが出来る能力――魔法。


まさか私は―!

新しい可能性に気づく。


永い眠りより目覚めた魔王から、世界を救うために遣わされた救世主では…!!


ピシャーンと天啓を受ける。


そうだわ。なぜこんな大事な事に気づかなかったんだろう。


前人生の一生分の記憶を持つことに、意味がない訳がない。

前人生で重ねてきた様々な経験が、長い人生の中で培われた冷静な思想が、これからの危険な討伐の旅に役立つことは間違いない。

そう考えると、前人生から引き継ぐ中途半端な料理の記憶は、旅の中で活かせる能力なんだろう。

料理を極めるためではなく、仲間を生かす能力なのだ。それは皆の胃袋をも掴み、生命を左右するほどの重要な役割を持つ。

料理人かつ魔法を操る救世主。ここから私の伝説が始まるのだ。


世界滅亡の危機が、近い将来に訪れることを確信した私は、居ても立ってもいられず父親の執務室に急いだ。

魔法の勉強がしたい、良い師を付けてほしいと懇願する。


父は、思いがけない娘の突然のお願いに驚きながらも、娘の興味を持つ芽を伸ばしたいと、魔法の先生を付けてくれることを約束した。

何かに興味を持ち、学びたいと目をキラキラさせる娘を微笑ましく見つめながら。



翌週。さっそく魔法の授業が始まった。

トーマス・ダランソン。

後に通う学園で教鞭もふるう教授でもある彼は、私の魔法の先生だ。

腰まである長い白髪のおじいちゃんは、いかにも魔法使いな様相である。このような先生との出会いに、ますます自身の救世主の立場に確信を持つ。


私の激しいくらいのやる気に溢れた顔を見て、ダランソン先生はニコニコと相好をくずした。私を包み込むような優しい笑顔に、前世のおじいちゃんを思い出す。

見てておじいちゃん…!私は世界を救ってみせるよ。

そう固く誓い、貪欲的に魔法の授業に取り組んだ。



喰らいつくように魔法の勉強を始めて一年。

私は気がついた。


私に魔法の才はない。



座学で学び始めた頃は良かった。

そらもう若い脳みそが知識をスルスル吸収する。

5歳児とは思えぬ天才っぷりを発揮して、あっという間に魔法理論を理解した。


――当然よ。私は世界に選ばれた救世主だもの!

火も水も風も土も操り、魔王討伐どころか世界征服も夢じゃないわね。


ククククク……


近く開ける明るい未来に笑いが止まらない。


そんな私を、ダランソン先生は優しく見守る。

熱心に自分の勉学に喰らい付いてくる、愛らしい生徒を。それはおじいちゃんの目だ。



ーーだけどここまでだった。

あんなにスムーズに進んでいた魔法の授業は、いざ実戦に入るとピタリと止まってしまった。


魔法の理論は理解出来るのだが、肝心の魔法を発動する才能がない。どれだけ力んでも、身体の中に魔力のカケラも感じられないのだ。

それでも諦めきれず、毎日身体の中の魔力を探り続ける。



ある日とうとう号泣した私に、ダランソン先生は私の背中を撫ぜながら優しく声をかけた。


「魔力は誰もが持つものではないんじゃよ。魔力は持って生まれるものじゃから、無いものから作り出すことは出来んのじゃ。

フルーリリ嬢は魔力を持っとらんが、魔法理論は理解しておるし、この知識は様々な役に立つ。魔法を理解する者は、希少じゃからの。」


そう慰められて、今までの努力は確かに無駄ではなかったし、学んだことは誇るべきであることを受け入れた。




――私は救世主ではなかった。


しかし考えてみれば、野宿なんぞ私に出来る訳がない。

虫こわいし。キャンプ未経験だし。後片付け面倒くさそうだし。


お風呂に何日も入れない、なんてのも嫌。私は湯船に浸かりたい派なのだ。

いくらパーティー仲間が極上のイケメン達であっても、風呂に入らない汗くさい野郎集団はいただけない。


お菓子やパンが作れても、アウトドアクッキングはしたことがない。

パン生地発酵させる前にご飯作れと言われたら、じゃあテメェが作れとキレること間違いない。




なんだかんだで魔法の勉強は好きだし、おじいちゃん先生も大好きだ。

救世主の道は閉ざされたけど(開いてもいなかったけど)、これからも魔法は学んでいくつもりである。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ほっこりした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ