11.義弟エリックの憂鬱
「リック、ただいま。今日もいい子にしてた?一緒にお茶をしましょう。学園の話を聞いてくれる?」
姉のフルーリリが学園から帰ると、必ず言う言葉だ。
「お帰り、リリ姉さん。お茶の用意は出来てるよ。今日のおやつはババロアだよ」
フルーリリが乗った馬車が家に着いたとの知らせを受けて、玄関まで迎えに行ったエリックは、姉にそう声をかけた。
姉は毎日、その日学園で過ごした様子を話してくれる。勉強の方は全く問題がないようだが、姉の人間関係には不安がある。というより不安しかない。
「今日はすごい発見があったの。第2食堂の方が第1食堂よりリンゴジュースの味が濃いのよ。リックもリンゴジュースが飲みたい時は第2食堂に行った方がいいわ」
「今日もヒロインは現れなかったわ。フレドリック様もスヴェン様も、いつも令嬢達に囲まれて身動き取れないから、ヒロインと出会う時間がないのね、きっと。本当に困ったヒーロー達だわ」
「ピンクの髪じゃないけど、可愛い平民の女の子を見かけたわ。あの子を推そうかしら」
「今日のケネスは少し大人しくて良い子だったわ。ダランソン先生がいたから嬉しかったのね、きっと」
そうやって取り留めのない話を聞きながら、エリックは姉の学園の様子を知る。
姉は相変わらずクラスでは1人で過ごしている。
少し周りを気をつけて見回せば、みんながフルーリリに話しかけるチャンスを伺っているだろうと思うのに、姉は全く気づいていない。今まで人付き合いをしてこなかったせいか、周りからの評価が見えないのだ。
フルーリリ自身が人に興味を持たないから、他人も同じように自分に興味を持つことがないと考えているのだろう。
でもそれはいい。フルーリリ自身がクラスで1人でいる事を気にしていないのなら、寂しいと感じていないなら、特に問題はない。
問題はフルーリリの周りにいる男子生徒たちだ。
入学式が始まる前からフルーリリに親切に接しているタイロン公爵子息。
入学式の代表挨拶を交代した、隣の席のクリスフォード宰相子息。
そしてダランソン先生の助手のケネス。
――最後の彼が問題だ。
クラスで1人でいる事に飽きると、フルーリリは魔法科にあるダランソン先生の研究室に向かう。
ダランソン先生を慕ってる事もあり、研究室は居心地がいいようで、最近はほぼ毎日研究室で過ごしているようだ。
私物もだいぶん持ち込んでいる。自分専用マグカップ、ノートやペンの予備、暇な時に読む本、休憩用クッションなど、日々私物を増やしているようだ。先日はとうとう薄手の毛布まで持って行っていた。
ダランソン先生は快くフルーリリのする事を受け入れてくれるが、助手のケネスが口うるさく文句を言って怒っていると、フルーリリは楽しそうに話している。
魔法科のケネス。
短髪の黒髪で、灰色の鋭い目を持つ男。平民であり、魔法界の第一人者であるダランソン先生に認められている先生の助手。
背が高く、ヒョロリとしているが、魔法の実力はあり腕は確かだ。
人付き合いを避ける一匹狼で、その容姿に関わらず女子生徒どころか男子生徒も寄せ付けない。
――そう。彼は女子生徒を寄せ付けない。
フルーリリが好ましいと思う男の、必須条件となるだろう要素を彼は持っている。
更に、流行りのあの小説の王子を、『婚約者を裏切った浮気者』扱いをしたらしい。フルーリリの好感を得るには十分過ぎる。
平民という身分も、口や態度が悪いことも、自身に悪意がないならばフルーリリに取っては関係ない。現に『ケネスは大人に反抗したくなる歳頃なのよ』のひと言で、ケネスの暴言を何ひとつ気にしていない。むしろ彼の言葉を面白がっていて、敬語を使うことなく遠慮なしの本音で接している。
今はまだフルーリリに彼を異性として特別に見る様子はないが、何かの拍子で関係が変化するかもしれない。
タイロン公爵子息やクリスフォード宰相子息も、フルーリリに好意を持っているように見える。だけど彼らはフルーリリの対象外だろう。女子生徒に人気があり過ぎる。
フルーリリは多くの女性に関わる男を警戒する。フルーリリが思う『乙女ゲームの攻略対象者』に条件がはまるからだ。彼らに興味は持っているみたいだが、フルーリリが語る彼らとのエピソードを聞いていると、彼らを『攻略者』という視点で見ている事が分かる。なので心配は要らない。
万一彼らが権力を使ってフルーリリに近づこうとするなら、それ相応にこちらも対処するだけだ。
エリックにとって脅威となるのは、現時点で魔法科のケネス、ただ1人だ。
早く先手を打たなければ。
自身が学園に入学するまで1年も待っていられない。
エリックは、日々焦る気持ちを募らせていった。
↓コチラのお話。
『その執着を見せる男との出逢いはー運命か、呪いか 』
この物語の数話先と繋がるものはありますが、全く個別のお話です。紅眼の話でエリック皆無です。
この物語の流れに入れるつもりでしたが、ちょっと違う感じになってしまい別物語としました。
ご興味持って覗いていただければ嬉しいです。




