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【完結】転生少女の立ち位置は 〜婚約破棄前から始まる、毒舌天使少女の物語〜  作者: 白井夢子
終わりからの始まり

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3. 見た目天使の義弟


諦めたように目の前で溜息をついたのは、義理の弟のエリックだ。


エリックは私よりひとつ歳下の13歳で、少し難しいお年頃に入ったようで、私に対して静かにため息をついて見せる事が多くなった。

とはいっても、私は年長者の余裕で少年の反抗期を流す事が出来るから、全く気にしていない。



そんな反抗期真っ只中のエリックは養子だ。

幼い頃、一人娘の私がバージェント家跡継ぎのカールと婚約を結んだため、カスティル家に跡継ぎ候補が必要になった。そのとき親戚筋の中で、跡継ぎ候補の資質がある優秀な者としてエリックが選ばれたのだ。

私フルーリリ6歳、エリック5歳の時である。



エリックはとても美しい子供だった。

月の光のような涼しげな銀髪と、秋に実る甘酸っぱい果実ピピリーのような紅の瞳を持つ、整った顔立ちをした美少年である。

神々しいまでの美しさに、初めて彼を見た時は天使が舞い降りてきたかと感動で打ち震えたものだ。


そんな彼と出会って、初めての弟に少し浮かれすぎていたのかもしれない。何かと構いたがる私に、最初エリックは戸惑った様子を見せていた。


私が構い過ぎた感は否めない。

だけど想像してほしい。

天使のような可愛い子供が、遊びに誘うと大人しく付いてきてくれるのだ。それはもう喜びしかないだろう。


だけどエリックの戸惑いは、私のせいだけではなかったようだ。



エリックは親戚筋の子爵家の次男である。

後に知った話だけど、エリックの本当の家族から受ける待遇は、あまり良いとは言えないものだったらしい。

彼の家族は、彼の容姿が気に入らなかったようなのだ。ないがしろにされる事はないにせよ、他の兄弟達とは明らかに違う扱いを受けていたようだと母が話してくれた事がある。


エリックはあまりその頃の事を話したがらない。

実の家族の話になると目が暗くなるので、深く聞き出すような事はしてこなかった。だけど悲しい思いはしてきただろうと想像はつく。

出会った頃に見せていた警戒するような様子は、実の家族に原因があったのだろうと思っている。



おのれエリックを悲しませた者ども。

天使を憂いされるような者どもには、大きな天罰が下るといい。

だいたいエリックの容姿のどこに不満があるというのだ。美し過ぎる者への妬みなのか。仮にそうだとしても『しょうがないわね』なんて許せるはずがない。

いつか痛い目に遭うがいい。



エリックは優しい子だ。

私達はとても仲が良くて、エリックにだけは私の秘密を打ち明けている。

――それは両親にさえ打ち明けた事がない秘密だ。

他の人にとっては、私の秘密は荒唐無稽な話だろうけど、エリックは私を信じてくれた。

話を聞いた後でも、ずっと私の側にいると約束してくれたのだ。

エリックは、時に信じられないくらい酷い仕打ちをしてくる事もあるが、基本優しい良い子だ。


だけど――そう。

彼は時たま酷いことをしてくる。

信じられない仕打ちを私に与えてくる時があるのだ。




「リリ姉さん。あまりに淑女らしからぬ行動をするなら、母様に相談するよ。しっかりお小言をもらった方がいいよ」



――こうだ。


見た目天使だけど、言うことがえげつない。

母が鬼のように険しい顔で、何時間も飽きずに説教し続けることを知りながら脅してくるのだ。


親に告げ口するとは、まだまだ子供ね。

やれやれと首を振りながら、可愛い義弟に冷静になるよう声をかける。


「リック、よく考えて。いい?親は大切にしないとダメよ。過剰な不安はアンチエイジングの敵なの。

怒ることでお母様の眉間の皺が深くなるなんて、あってはいけないことよ?

リックはもっと女性について学ぶべきだわ」


諭すようにゆっくりと話す姉の言葉に、僅かに目を見開いた義弟はまた深く溜息をついた。



己の浅はかな言葉を反省したらしい。

見た目天使で、時に悪魔な言葉を発する義弟は、基本素直な可愛い子なのだ。


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