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21. 婚約破棄を告げるのは誰か

学園入学後のカールのお話。


カール   15歳

フルーリリ 14歳


最近、婚約者カールの様子がおかしい。


もともと優しくてのんびりした子だったが、最近どうも様子がおかしいのだ。


学園に入学したあとの最初の訪問日から、カールは明らかにいつもと違う様子を見せていた。

共に散策していてもお茶をしていても、意識がこちらに向いていない時があるのだ。

もともとぼんやりした子だったが、話しかけても気づかないなんて、ぼんやり具合が重症すぎるだろう。

始まった学園生活についていけず、毎日に疲れているのかもしれない――そう思っていた。







今日はカールの訪問日だ。


前回の訪問日の時は、カールの具合が急に悪くなったと連絡が入って中止になったので、2ヶ月ぶりの再会となる。

だけど久しぶりの再会にも関わらず、カールは今日もぼんやりしていて、エリックを含めた3人でのお茶の席にいる今も、意識がどこか遠くへ飛んでいる様子を見せている。


学校に通い出した子供は、大人が注意して見守ってあげないと不登校に繋がることもあるわ。

目の前のカールを心配するフルーリリ。



お茶を飲みながらも、どこかぼんやりとしている婚約者に声をかける。

「カール様?大丈夫ですか?」


心配げなフルーリリの声色に、カールはハッと意識を取り戻した様子を見せる。


「ごめんね。少し疲れているみたい」

そう言い訳するカールを、注意深く観察する。


心のSOSを見逃しちゃダメよ。よく見れば、何か信号を送っているはず。心の病になる前に、周りが気づいて先手を打つことが肝心よ。

そう自分に言い聞かせ、少しの異変も見逃さないよう慎重にカールを観察していく。


時おり何かを思い出したように緩む口元。

幸せそうに、ほんのり赤く染まる頬。

あからさまな様子ではないが、注意して見ていると、ほんの少し表情を崩す瞬間がある。


あ。これは――このニヤケた顔は…

フルーリリはその婚約者の様子に、不穏な原因を直感した。

自身の勘が告げている。『コイツはクロだ』と。






カールの帰宅後に早速、フルーリリはカスティル家諜報部のリーダー、庭師のトムにカールの調査を頼む。

極秘任務だ。


庭師のトム――庭園の木々を剪定しながら、闇の世界で暗躍する男。

ツナギを来た、温厚なおじいちゃんは仮の姿だ。



トムが諜報部リーダーだという秘密を知ったのは、偶然だった。

お母様からのお小言から逃れるために、植木の間に空気のように隠れていたところ、それに気づかずトムが諜報活動報告を部下に受けているところを盗み聞きいてしまったのだ。


私が知ってしまったことを黙っている代わりに、私が困った時は助けてくれること。そのとき約束させた。

大事なのは、相手が動揺してる隙を狙って即交渉する事。交渉は成功した。



――フルーリリへの身バレは、実はすぐにカスティル当主に報告されたのだが。

その報告を受けたフルーリリの父カスティル伯は当時、「流石僕の娘だ。優秀すぎる天使だね」と満足そうに喜んでいた。





諜報部を動かす時が来た。

ターゲットはカール・バージェント伯爵子息。

浮気の可能性あり。

学園を調査せよ。

必ず証拠を掴み、すぐに報告するべし。



優秀なカスティル家の諜報部員は、着々と数々の証拠を上げていった。



調査報告書を見て舌打ちしそうになる。

やはりヤツはクロだった。


入学してから間も無く、いつも一緒にいるようになった女がいるらしい。お昼は女の手作り弁当を食べ、そのお礼にとカフェへ誘ったりプレゼントを贈ったりしているようだ。

『具合が悪くなったから』と訪問を断られた事があったが、その日は女の誕生日だったようだ。公園を共に散策した後に、女の髪色の小さな宝石のついたネックレスをお祝いにと渡したらしい。『友情のネックレスだよ』とかふざけた事を言いながら渡したようだが、女にネックレスを贈るなんて行為は、友情皆無の下心でしかないだろう。『下心のネックレスだよ』と渡すべきだ。馬鹿な男め。


あざとい女にコロリと騙される、にやけチョロ男野郎。ぼんやり歩いて、石につまずいて激しく転んでしまえばいい。


この集めた数々の証拠で、私が学園に行った暁には、皆の前で浮気を断罪してやる。そして高らかに婚約破棄を突きつけるのだ。お前はもう終わりだ。


10倍返しは淑女の基本。

裏切られる前に裏切ってやるのだ。


ククククク

笑いしかでない。


誰も見ていない場所で1人仄暗い笑いをうかべるフルーリリ。



そんな姉を静かに開けた扉から、残念そうに見つめるエリック。

姉は今日も思想の淵に潜って、ノックに気付かなかったらしい。





学園で婚約破棄を突きつけて断罪する

それはまるで乙女ゲームのストーリーだった

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