15. 王家主催のお茶会②
前世ネズーランド並みの、キラキラした華やかな賑やかさを持った、王家主催のお茶会は続く。
フルーリリとエリックは、お茶会が開かれている庭園の片隅に立ち、そんな会場を遠目で見続けている。
隅にいても目立つ2人に、エリックの知り合いである貴族子息達が何人か挨拶に来る。
エリックの隣に佇み、大人しく控えめな微笑みを浮かべるフルーリリ。
妖精のような儚げな美しさを持つフルーリリとは、是非ともお近づきになりたい。しかし笑顔ながらも氷のような冷ややかなオーラを放つ、紅眼のエリックと共に過ごす勇気はない。挨拶だけを交わし、名残り惜しそうにフルーリリを見て、皆離れていく。
「お茶会って楽勝ね」
ただ微笑んでいるだけで、人づきあいに巻き込まれる事なく場を過ごすことができるのだ。ちょっと拍子抜けした気分でもあった。
このお茶会に向けて、母親から鬼気迫る様子で日々諭されていたため、貴族同士の付き合いというものに一応身構えてもいたのだが。
本当に私の母は心配性だ。
「あそこにいるのは、タイロン公爵家の御子息様ね。貴族年鑑で見た通り、かなりのイケメンだわ。ここが乙女ゲームの世界だったら、攻略対象者に間違いないわね。まぁもうこの世界の乙女ゲーム疑惑は晴れたんだけど。
家門のことを思えば挨拶に向かうべきでしょうけど…あんなに人に囲まれてたなら、行ったところで覚えていないだろうし、行った事にしても大丈夫でしょう」
「お母様には、公爵家の御子息様は素敵な方でした、って報告しなくちゃ」
「あ、あそこで宰相御子息様も人に囲まれてるわ。あの方にも挨拶した事にして大丈夫そうね」
「人気のある方は、ご挨拶済みでいいわね」
自由な発想で勝手なことを呟くフルーリリ。
そんな嘘はすぐバレる。今夜の夕食の席で姉の報告を聞いた後、姉が義母に呼び出されることは確実だろう。
「綺麗なご令嬢達にあれだけ囲まれたら、彼らは世の女性全てが俺に惚れている、とか勘違いしちゃうかもしれないわね。そうして次々と女の子達に手を出すような股がけ野郎になっていくのよ。
イケメンって犯罪確率高いから、むしろ気の毒ね…」
かなりやばい事を呟き出した。
隣に立つエリックは、急いで姉の妄想暴言を止める。
「リリ姉さん、今はお茶会中だよ。今そんなことを言ってる事を母様が知ったら、数時間の説教じゃ終わらないと思うよ。
このお茶会で淑女らしい行動ができなかったら、1ヶ月のオヤツ抜きって約束だろ」
冷水を浴びたかのようにハッとし、フルーリリの意識が茶会に戻る。
「リック、よく聞いて。今の言葉は空耳よ。私がこの大切な場で失言をするわけがないでしょう?
仮にリックが何かを聞いたとしても、それをお母様に伝えてはダメよ。お母様の眉間のシワが定着してしまうわ。そんなの決して許されることじゃないの。いつまでも若くて綺麗なお母様でいてほしいでしょう?
勉学の先生もみんなリックを優秀だと誉めているわ。そんなリックなら、物事の善悪が分かるでしょう?」
あまりに必死な様子の姉に、フッと笑いが出る。
「そうだね。僕の聞き違いだったのかも。でももしリリ姉さんの言葉を、他の誰かも聞き間違えるとマズいから、もう少し静かな場所に移ろうか」
そう言って賑やかな茶会の場所から、少し離れた静かな場所へフルーリリを連れ出した。
エリックも多くの視線に疲れていたところだ。