12. 王家主催のお茶会日
いよいよお茶会の日だ。
今日は夜明け前からお茶会準備のために磨き上げられている。お茶会は昼過ぎだというのに、貴族社会は子供にも厳しいらしい。
そして息も絶え絶えになった頃に、フルーリリお茶会仕様は完成した。
「お嬢様…!!なんてお美しい!普段から天使ですが、今日は女神様のような神々しい美しさで眩しいくらいです!なんて…なんて…」
と滝のように溢れる涙を拭いもせず、私の侍女アンが感動で震えている。
彼女は4歳年上の男爵家の5女で、物心ついた頃から私に付いていてくれる女性だ。
私から見ればまだまだ子供に近い女の子で、近所のおばちゃんのような気持ちで見守っている子である。
よしよしとアンの背中を撫ぜ、姿見の中の自分を観察する。
確かに今日の私はひと味違う。
ふわふわの淡い金髪はサイドで編み込み、目の色に合わせたアクアマリンの髪飾りで留めている。プリンセスラインのドレスも光沢のある薄い水色の生地で、白い繊細なレースが飾られている。
…お店に飾られている人形みたい。
盛りに盛って加工された状態ではあるけれど、今日の私の顔面偏差値は過去最高レベルだろう。
侍女の仕事能力の評定値が爆上がりだ。
まじまじと鏡の中の自分を見つめる。
これだけ可愛いなら、もしかして伯爵家令嬢というヒロインらしからぬ家格でも、ギリギリヒロイン候補に上がれるんじゃない?
気を良くしてへへへと鼻の下をこする。
「リリお嬢様!ダメです!!」
鬼のような形相に変わったアンが、慌てて化粧を直しだす。
そうだ。これは作られた美しさだった。
そうね。私がヒロインになれるわけないわ。ヒロインは本当に選ばし者なんだもの。当たり前よね。
ちょっと悲しい気分になっていると、扉をノックしてエリックが部屋に入ってきた。
「リリ姉さん、用意は―」
部屋に入って姉の姿を見た途端、言葉を無くして固まるエリック。
そんなエリックを不思議そうに見て、フルーリリは声をかけた。
「リック、今日はますます素敵ね。きっとお茶会では、王都中のご令嬢がリックに釘づけよ」
普段とは違う姉の姿に見惚れ、固まっていたエリックだったが、我に返ったようにフルーリリに返事をする。
「リリ姉さんも今日は特別綺麗だよ。春の妖精みたいだね。… 一緒にいるとちょっと緊張しちゃうかも」
エリックの言葉に軽く衝撃を受ける。
「リック、ダメよ。
そんな風に女の子に声をかけたら、みんな勘違いするわ。次々と女の子を攻略していこうなんて、下衆な男のすることよ。
決して、女にだらしのない股がけ最低野郎になっちゃダメよ。股がけ野郎は女の敵よ」
エリックは、姉のその言葉にスンと表情を落とす。
どれだけ綺麗に着飾っても、やっぱり残念な姉なのだ。
それから。
「うちの天使は最高すぎる!神に見初められるほどの美しさだよ!」
号泣する父の横で、母は顔色悪く淑女の教えを何度もフルーリリに念押しした。
「いい?リリ。くれぐれも言葉遣いに気をつけるのよ。淑女らしからぬ言葉を、決して口に出すことのないようにね。
……もし母との約束を守れなかったら、1カ月オヤツは抜きよ」
最後に母は、低い声で恐ろしい事を言ってきた。
フルーリリは震え、気を引き締める。
そうして私たちは王宮へと向かった。