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11. お茶会というものは

私に友達はいない。


5歳で前人生を思い出し、必死に足掻いているにも関わらず、この世界での立ち位置をいまだに知る事が出来ない。

この6年もの間は、追われるように勉学に打ち込んできた。悪役令嬢取り巻きとしての断罪対策のためだ。


そう。破滅への道を進む私には、人付き合いをする余裕なんて無かった。時間的も、気持ちの余裕的にも。


12歳にもなったのに、1人の友達どころか、婚約者家族以外の知り合いさえいないこの状況は、前世では考えられないことだろう。

だけどここは貴族はびこる社会。独りで家にこもり続けても、深窓令嬢ということで許される。

素敵な社会だ。



山のように届く茶会への招待状も、失礼のないよう丁寧に全て断ってきた。

子供と遊んでいる時間などなかったのだ。


この人生ならば孫を見るような気持ちで、茶会で出会うだろう子供達を可愛がることができたかもしれない。

しかし一緒に遊ぶというなら話は別だ。


この精神年齢最高峰を誇る私に、絵本を読めというのか。

私におままごとをさせるのか。

私に出す飲み物は、甘いジュース一択になるのか。

―いやジュースは精神年齢おばあちゃんな私でも、実は好きなんだか。


それでも言いたい。

コーヒー、ホットで。

紅茶はストレートでお願いします。

あ、お砂糖とミルクは結構ですよ、と。



参加をした事がないので、この世界のお茶会というものが、どのようなものか見当はつかない。

お茶会―それはママ友とのオシャレなホームパーティーみたいな感じではないだろうか。



最近どう?

えーもう最悪。目元がたるんできた気がするの。もう歳よね。アンチエイジングに効くクリームない?ちょっとこのサプリ高いけど試す価値あるんじゃない?

今度あそこのカフェでランチしましょう。


という感じの会話で盛り上がるのだろうか。



それともババ友の自宅茶会みたいなものだろうか。


最近は喫茶店行こうにも、お会計する時がかなわんわぁ。「バーコード読んでください」とか言われても、娘が付いててくれんとでけへんもんな。QRコード決済とか難しい事言わんといてほしいわぁ。

それにしても歳とると不便よなぁ。数字が6なんか8なんかさっぱり見えへん時あるわ。

わかるわかる。あはははは。


こんな感じか。

お会計時の不安なくお茶が出来る自宅での集まり。安心できる会だ。





妄想の中のエアお茶会を楽しむフルーリリに、エリックが心配そうに声をかける。


「リリ姉さん、少し休もうか。疲れてる時は甘いものがいいよ。今日はもう勉強は休んで一緒にゆっくりしよう」



今日も義弟は美しく優しい。

心配しないで、というようにニッコリと笑い返す。




今日のおやつは色とりどりのマカロンと、ミルクたっぷりの紅茶だ。マカロンをご機嫌に齧っていると、エリックが何気に話題をふってきた。


「そういえば王家主催のお茶会が今年も開かれるみたいだよ」



王家主催のお茶会。それは春と秋に開かれる貴族の子供達のための茶会で、皇子達の友人にふさわしい者を見極める目的を持って始まった会である。



―この世界で生き残るための勉強を始めた頃に知ったのだが、どうやらこの国に攻略者対象となる王子様はいないらしい。


大事な事だからもう一度言おう。

この国に、お年頃な王子様はいないのだ。


この国の皇太子様は30歳近くになるし、子供はまだだが美貌の皇太子妃を持つ既婚者だ。

それを知った時、王子様不在の乙女ゲームか…と少し寂しい気持ちになったりもしたが、よく考えれば私に取っては幸運な話だった。


国の最高権力者が不在ならば、断罪時にひどいことにはならないだろう。即処刑と叫ばれる事がないのではないか。


王家主催お茶会は、皇太子様が子供の頃から続く、今や伝統的な貴族の交流会というところだ。



話は逸れたが、カスティル家跡継ぎ候補としてエリックは何度かお茶会に参加している。

婚約者のカールも参加してるみたいだが、この世界は婚約者だからといって茶会に一緒に参加する義務はないらしい。

それをいいことにして、深窓令嬢設定を利用して一度も王家の茶会にも参加したことはない。私は極度の緊張しい(設定)なのだ。



だが。先ほどちょうどエア茶会も楽しんだことだし、リアルお茶会に参加してみてもいいかもしれない。


「私も参加しようかしら」


突然の参加表明に、エリックは驚いた顔をする。今まで興味のある素ぶりも見せた事がないから当然かもしれない。


どんな心境の変化があったのかと、戸惑う声で問われる。


「たまには誰かと世間話するのもいいかと思って」

ふふと笑って答える。



リリ姉さん、王家主催のお茶会は世間話するような場所ではないんだよ。

――心の中で姉に語りかける。


エリックは、姉の答えに不安になる。

今まで茶会に興味すら示さなかった姉が、よりによって初めて参加するのが王家主催のお茶会なんて…

王都中の貴族の子息令嬢達が集まるのだ。この姉が無事に茶会をやり過ごせるのか。


「リリ姉さん、僕なんだか心配だよ…」


不安げなエリックの言葉に、フルーリリはハッとする。


今まで子供の相手をしてる暇はない、と茶会の招待は全てお断りしてきた。だからエリックは1人で参加してきたのだ。

今までさぞ心細い思いをしていたに違いない。

11歳といえばまだまだ小さな子供。他所のお宅に1人で遊びに行くことに、どれだけの勇気がいることか。


姉としての不甲斐なさに申し訳なくなる。


「大丈夫よ。これからは私も一緒にお茶会に参加するわ。姉さんがついてるから安心して」


フルーリリの慈愛に満ちた笑顔に、エリックはますます不安を募らせていく。




その日の夕食の席で、フルーリリは王家茶会への参加の意思を両親へ伝えた。


父は純粋に喜んだが、母は滅亡の日となり得る茶会に戦慄を覚えた。我がカスティル家の没落――恐怖で身体が震える。

緊迫した声で母は告げる。


「リリ、明日から淑女教育を詰めるわよ。茶会では決して粗相のないよう、明日から猛特訓よ」


その言葉を聞いた瞬間、とてつもなく嫌そうに顔を歪めるフルーリリ。


そんな娘の顔を、愛おしそうに見つめながら父が言う。

「リリは嫌そうな顔してても可愛いね。天使みたいだよ」


フルーリリは、明日からの特訓命令にイライラしながらすかさず父に反論する。


「お父様。そんなセリフはタラシ野郎の言うセリフですよ」


そう戒める娘の言葉に母は目を剥き、地を這うような低い声で言う。

「リリ、後で私の部屋に来なさい」


今夜も長時間お説教コースが待っているようだ。

涙目になるフルーリリ。


そんな姉を見つめながら、エリックは深いため息をそっとついた。




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