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10. 婚約者カールの訪問日は

サブタイトル加えました



カール   13歳

フルーリリ 12歳

エリック  11歳

今日は婚約者カールの来訪日だ。


月一回のペースで、カスティル家にカールが来る。

来てもらうばかりでは悪いので、フルーリリがバージェント家に行ってもいいのだが、目の届かないところに行く娘を心配した母に厳しく止められている。




カスティル夫人は、いつまでも進まないフルーリリの淑女教育に、恐怖に近い不安を抱えていた。

バージェント御子息が我が家にいる間は、私やエリック、使用人達が目を光らせる事ができる。フルーリリが流れるように暴言を吐き出した瞬間に、素早く対処する事ができるのだ。

月に一度の来訪ならば、細心の注意を持って挑めばボロが出ることはない。

フルーリリとバージェント御子息との婚約が結ばれてから6年。今までずっとやり過ごして来たのだから、今日も大丈夫。


そう自身に言い聞かせた。そしてカールの来訪前に、淑女としての心構えを娘に念押しするため、娘の部屋に向かった。





「お母様って本当に心配性よね」

フルーリリは自室で、だらしなくソファーにもたれかかった。そしてテーブル向かいに座ったエリックに声をかける。



「お嬢様、ドレスにシワが付いてしまいます。今日はバージェント御子息様がいらっしゃる日ですよ」

侍女のアンが急いでフルーリリに声をかける。


「アン、私の部屋にいる時くらいは自由にしててもいいでしょう?そんなに細かい事を言うと、お母様みたいになってしまうわよ。そんな若いうちから眉間にシワを寄せていたら、お母様の歳にはもうおばあちゃんよ。お母様はもう取り返しがつかないところに行きかけてるけど、アンならまだ間に合うわ。気をつけなさい」

やれやれ困った子だわ、といった様子で侍女のアンを諭す。




「フルーリリ」

低く他を這うような声で呼ばれる。


「お母様!」

急いで姿勢をピシッと正し、いつの間にか部屋の扉を開けて、こちらを見ている母に誤魔化すような笑顔を向ける。

何も言ってませんけど、というようにすました顔を見せる娘を叱りつけたい気持ちはあるが、もうすぐバージェント御子息の来訪時間だ。それよりも言い聞かせなければいけない言葉がある。怒りをぐっと飲み込む。


「分かってると思うけど、くれぐれもカール様に失礼のないよう気をつけるのよ。決して汚い言葉づかいをする事がないようにね。くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も!気をつけるのよ」

そう短く娘に要点を伝え、ついでとばかりにエリックとアンにも声をかける。


「リック、貴方も姉のそばを離れないでね。リリがおかしな事を言い出したら、すぐに話題を変えるのよ。

それからアン、貴女も気を引き締めておきなさい。緊急事態だと判断したら、即お茶をお勧めしなさい。お茶とお菓子のおかわりをすぐ出せるよう、いつでも手元に用意しておくのよ」


厳しく指示を出す母に、フルーリリは母を落ち着かせようと声をかける。


「お母様。カールのことなら、それほど気を回さなくても大丈夫ですよ。優しい子だし、のんびりしてるもの。少しくらい悪口を言われても気づきませんよ」


安心してください、というように明るい笑顔を母に向けるフルーリリ。


言葉を失った母に、エリックとアンは声をかける。


「母様、お任せください。必ず今日も乗り切ってみせます」

「奥様、お茶とお菓子の用意は完璧にしております。危機を無事回避できるよう、本日も尽力を尽くさせていただきます」


力強いエリックとアンの言葉に、カスティル夫人の気持ちが少し落ち着く。

「お願いね」

そう2人に声をかけて、母は疲れたようにフルーリリの部屋から出ていった。





仕事の出来る2人の努力の甲斐あって、今日もバージェント子息のカールは、終日穏やかな表情でカスティル家を過ごした。

周りの努力の結果、カールの中でのフルーリリは、可憐で大人しく、言葉少ない内気な少女だ。

カールにも気が弱い妹がいるので、女の子はそのようなものだろうと、何も気にすることなくフルーリリを受け入れている。

―それが虚像だと知ることなく。




夜。今日を乗り切った感で、エリックは疲れ果てて早々にベットに倒れ込んだ。

こうして落ち着いてみると、本当のフルーリリを知らない義兄を少し気の毒に思う。


だけど本当のフルーリリを自分だけが知っているという、自身の仄暗い喜び―それに気づかないフリをして深い眠りのために意識を手放した。




フルーリリにとって、カールは1つ歳上、エリックは1つ歳下になります。



「精神年齢差は…そうね。100歳差くらいになるかしら」 (フルーリリ談)

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