9. 6年後の2人
フルーリリ12歳
エリック11歳
国外追放と平民堕ち対策をし出して6年が経った。
だてに前人生と合わせて100年近く生きてきたわけじゃない。
勉学に対する要領の良さなど仙人レベルだ。
まぁ前人生の後半に差し掛かったくらいから、物忘れが多く脳の衰えを痛感していたが。
前人生の要領の良さだけを残し、今回人生の若い脳みそを合わせる。それはもう最高のコラボレーションだ。
確実に培っていく知識と経験に笑いが止まらない。
クククク…
そんな姉の笑いを聞こえないふりをしながら、今日もエリックは勉学に打ち込む。
姉に負けてはダメなのだ。高い知識を持たなければ、この破天荒な姉を抑えることは出来ない。
姉が懸念する断罪と国外追放。
そんな未来が来るとは思えないが、少しでも危険の芽があるならば――自分が先回りして、その芽を摘まなければならない。
瞬時に適切な判断を下すためには、知識が必要だ。
もともとエリックは頭脳の優秀さを買われて養子に入った跡継ぎ候補だ。精神年齢おばあちゃんにも引けをとることはない。
涼しげな顔をして全てを吸収するかのように勉学を身に付けていく弟を見て、その常人ではない能力にフルーリリは慄く。
攻略対象容疑者の能力、恐るべし。
しかし今人生=実年齢の子供に負けるわけにはいかない。――見てなさい!年の功というものを見せつけてやるわ!
燃え上がる闘志で、更に勉強に取り組むフルーリリ。
競うように学ぶ2人は、カスティル家の神童姉弟として、静かに世間に認識されていくのであった。
その子供達の親であることに誇りを持つカスティル夫妻であったが、そんな栄誉な噂を子供達の耳に入れることはしなかった。
母親がその噂を心配したのだ。
エリックはともかく、フルーリリはまずい。神童姉弟などという噂を聞こうものなら、それはもう調子に乗るに違いない。
淑女教育だけが全く成果を見せない娘に不安を覚えている母は、茶会の席で子供達への称賛の言葉をかけられる度に、控えめな笑顔を返すだけにしていた。
実物の娘を見たら、皆の期待を裏切ることは間違いない。
今まで絶賛されてきたぶんの反動が、どう返ってくるか想像するだけで身が震える。
娘の実態が世に晒される時――それはカスティル家の滅亡の時だ。社会的な。
子供自慢をするわけではなく、いつでも控えめなカスティル夫人は、いつしか社交界を代表する貴婦人として高位貴族の夫人達からさえも羨望の眼差しを送られていた。