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22.放置された事件現場の行方


やれやれといった様子でシェリーは2人を見ていたが、思い出したようにミリアムに近づき、治療魔法をかけておく。


学園での攻撃魔法は厳罰対象だ。

たとえこの女から身を守る為だったとしても、懲罰は免れないだろう。これがバレれば、ケネスは学園にも居られなくなる。

シェリーは同僚のよしみで、証拠を隠滅してあげることにした。



『ケネスったら手加減なしね。この子、重症じゃない。この治療は私からのお祝いよ。ケネスにはあの任務地から解放してくれた恩もあるしね。

これでこの女は、『ここで昼寝をしていた』で通じるはずよ』


――シェリーの彼女への嫌がらせはまだ続いている。

魔法使いは執念深いのだ。






穏やかな空気が流れる中、突然低い声が響く。


「おい。ケネス、テメェ死にてえのか。なに任務を放り出して消えてんだよ。…シェリー、テメェもそうだ。こんな所で遊ぶ余裕があるなら、回復薬を今から倍は作れ。その首を飛ばされる前に早く動け」


ケネスの身体が固まり、石が冷たくなる。

ケネスの緊張が伝わる。

フルーリリは、ケネスの腕の中から声の方を見ると、ダリルが青筋を立てて笑っていた。



――流石不良グループの代表者ね。

その笑顔は泣く子も黙りそうだ。

フルーリリは、前世で隣の家に住んでいた男の子を思い出す。

彼もまた仲間内の裏切りを許さない熱い子だった。やるべき事を放棄するような行為を決して許さない、正義感の強い子だったのだ。


『そうね。お仕事をサボって遠くに来ちゃうなんて、近所のあの子を怒らせて当然だわ。悪いことをしたわね』

そう考えて、ケネスに小さな声で伝える。


「ケネス、お仕事頑張ってね。たくさんのお菓子を用意して待ってるわ。なるべく早く帰って来てね」


ケネスは目を見開いて驚いた顔を見せたあと小さく笑い、石も温かくなった。

「そうだな。とっとと片付けて帰って来るよ。無事で待ってろよ」

そう囁いて、フルーリリの額にそっとキスを落とした。


固まるフルーリリを置いて皆んなは消えてしまい、フルーリリはしばらくそのまま動けなかった。




『私は精神年齢100を越えるけれど、この世界では16歳なのかもしれないわね。ケネスが男の人に見えてドキドキしてしまうもの』

そんな風に思いながら、ケネスに届けてもらうお菓子を用意するために、いそいそとその場を立ち去った。




去り際に芝生に横たわるミリアムに気づいたが、様子を伺うと怪我もなく熟睡しているだけのようなので、そのまま立ち去る事にした。

『こんなにお天気が良い日だもの。お昼寝したくなる気持ちも分かるわね』


そうしてミリアムの襲撃事件は静かに幕を降ろした。

誰も彼女を責めようとしない優しい世界だった。







日が落ちかけた頃。

芝生の上で眠るミリアムに気づいた用務員さんが、ミリアムに声をかける。

「お嬢さん、そんな所で寝ていたら風邪を引きますよ。疲れているなら、早く帰ってお家で休みなさい」



その声で目を覚ましたミリアムは、久しぶりの深い睡眠で頭がクリアになった気分だった。

「あれは夢だったのね。私も疲れ過ぎていたみたい」

そう呟いて、生徒会室へ向かって歩く。


『生徒会室に入る前に、化粧室で髪を編み直さなくっちゃ。最近癖毛が酷いのよね。年齢を重ねると髪質も変わるっていうけど、枝毛も急に増えたし本当に嫌だわ…。トリートメント剤を変えようかしら』


そんな事を考えながら歩いていたエミリアは、ふと自分の気持ちの変化に気づく。


「あれだけフルーリリ様が憎らしく思えたけど。こうして眠ってスッキリすると、そんなに気にする事でも無いように思えるわ。ずっと睡眠不足だったから、疲れていたのね」

そう呟きながらミリアムは、崩れてしまった髪型に手をやった。


スッキリした表情のミリアムの鼻は、3ミリ低くなっている。まつ毛も2ミリ短くなって、少し直毛になっていた。


だけどそんな変化に、ミリアムは化粧室で鏡を見ても気づく事はなかった。



鼻とまつ毛の攻撃は完璧だったが、精神的な仕返しは失敗だったと言えるだろう。

咄嗟の出来事だったので、フルーリリ自身攻撃した事を忘れており、魔法攻撃事件も誰にも気づかれる事なく静かに幕を降ろしていた。

気付かなければ、誰も傷つく事のない優しい世界だった。







生徒会室へ戻ったミリアムの、『外でいつの間にか昼寝をしていた』という報告を受けて、生徒会では今取り組んでいる多くの企画を見直そうという動きになった。

『何故あんな場所で寝ていたのか分からない』というミリアムの言葉に、仕事に忙殺される日々が与える危険性を感じ取ったのだ。


とりあえずその日は生徒会活動を止める事になり、『今日はこれで解散するから、皆ゆっくり休むように』と会長が指示を出す。

翌日、よく眠りすっきりとした頭で皆が集まり、互いに現状を省みると、自分達の異常な状況にやっと気づく事が出来た。

今までは皆が疲れ過ぎて、正常な判断が出来なくなっていたのだ。

次々と挙げていった企画を全て一旦取りやめ、無理のない範囲での生徒会運営へと方向を変えることに決まった。


中途半端に進めてしまっている企画もあるので、まだ片付ける事が残ってはいるが、生徒会役員達の平和な世界がもうすぐ訪れようとしている。













重ねて連載を始めています。 

   ↓

『呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達』

   

どうかしてるとしか言えない世界観かもしれませんが、立ち寄ってもらえたら嬉しいです!


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