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17. 変わっていくストーリー


目の前の激しい親子のやり取りを、フルーリリは黙って見ていた。

カスティル家もそうだが、前世の家族も声を荒げるような者はいなかったので、フルーリリは家族同士の暴力的なやり取りを目にするのは初めてだった。

だが男所帯の家族というものは、そういうものなのだろう。他人がとやかく口を出すものではない。


しばらくじっと見ていたが、ダリルの腕がおかしな方向に曲がり出した。

そろそろ止めに入った方が良さそうだ。あの子は根は優しい良い子なのだ。



「ロン、そろそろお茶にしましょう?今日は昨日話してた、シェリフルハーベストの新作も持って来たのよ」

「そうか、それは楽しみじゃ」


フルーリリの声かけに、バイロンがダリルへの報復の手を止め、笑顔をみせる。



2人のそんな様子を、痺れる腕をさすりながらダリルが信じられない物を見る目で見ていた。

サイコパスと呼ばれるバイロンの報復中に声をかけて無事であった者はいない。

『この女をえらく気に入っているみたいだな。俺の嫁とかふざけた事を言っていたが、何のつもりだ』


不審な女をもっとよく見てやろうと、ダリルがフルーリリの前に音もなく立つ。




そこに研究室の扉が開いた。


疲労困憊といった様子で、出発した時よりもやつれて見えるダランソンと、ケネスとシェリーの三人が戻ってきた。



「みんな、お帰りなさい」

そう声をかけると三人の目がフルーリリに向き――その瞬間、ケネスが動いた。

フルーリリの前に立ち、ダリルのフルーリリへの視界を遮る。




目の前の凶悪な男を睨みながら、ケネスは自分自身が信じられなかった。

それはケネス自身が何かを考えての行動ではない。

ただ身体が動いたのだ。


目の前のこのピンクの硬そうな髪をした男は、とても残虐な男だ。サイコパスで、何をきっかけに暴れ出すか分からない。

今回の任務も結局はこの男と4人で組むことになり、散々な目にあった。意味のない嫌がらせで、明らかに楽しんでいた。こうして無事帰って来れたのが奇跡だと言っていいだろう。

そんな男がこの無謀な女の前にして、無事に済ませるハズがない。

ダリルの動きを警戒しつつ、その目を外さないままでいる。





目の前で自分を睨んでくるケネスを、ダリルは改めて観察し始めた。

この若い男は、昔から嬲ってきたダランソンの助手だ。軟弱そうなこの男に今まで興味を持ったことはなかったが、ダランソンの嫌がらせついでに今回も痛めつけておいた。

自分の前に立つような命知らずだったとは……それほどこの女が大事なんだろう。


ふうんとダリルが暗く嗤う。





ダランソンは、そんなケネスの行動を見て、呆れるしかなかった。

『こんなサイコパス共の前で弱みを見せるとは愚かな奴め。ダリルがどれだけ惨虐な者であっても、大師匠のお気に入りに手を出すなんてこと、出来るはずがないじゃろう。そんなこと考えなくとも分かるだろうに』

いくら自分の助手でも、ダリル相手では分が悪すぎる。

『これも試練じゃ。諦めて嬲られておけ』

ダランソンは我が身可愛さに、助手をアッサリ見放した。




ピリピリとした空気の中、バイロンが明るい声を出す。――その顔は満面の笑みだ。

「おおケネス、安心するがいいぞ。ダリルはリリを傷つけたりはせんじゃろう。……おそらくな」


「おそらく」という言葉に目を鋭くさせたケネスに、『面白いオモチャを見つけた』とばかりに、更に揶揄う言葉を続ける。


「そんな顔をせんでも大丈夫じゃよ。リリはダリルの嫁候補じゃからの。大事にするはずじゃ。」

「はあ?!」


思わず声をあげたケネスに、ダリルも口元を歪ませて笑う。

「そうだな。俺もそろそろ結婚を考える歳だな」

「ふざけんな!テメェは87のジジイだろうが!」


ケネスの言葉にダリルは困ったように眉を下げる。

「そうだな、俺はもう87歳だ。身体がいう事をきかん歳になってきた。この先の任務は俺が担当する予定だったが、若いお前に譲ろう。せいぜい頑張れよ」


ダリルの言う任務は、ダリルの能力あっての任務だ。自分には完全に実力不足な任務と言えるだろう。

だけどここで否と言えば、必ずこのサイコパス野郎は、ただ俺への嫌がらせのためだけに、この女に手を出すはずだ。


ケネスはチッと舌打ちする。

本当に腹立たしい女だ。いつも自分を厄介ごとに巻き込んでいく。

取り返しのつかない所まで来てしまったが、しょうがない。何とか生きて帰るしかない。


「やるよ。ジジイは寝てたらいい」

そうダリルに吐き捨てた。




「さあ、そろそろ行こうかの。ワシが見送ってやろう」

バイロンがダランソンを魔法で拘束する。

「いや、ワシはもう―」

抵抗の言葉を魔法で黙らせて、バイロンが暗く嗤う。

『魔物の巣窟へ落としてきてやろう』

先ほどダランソンに報復してやろうと思いついた事をバイロンは忘れていなかった。――魔法使いは執念深い。


身の危険を察して逃げようとしたシェリーをダリルが拘束する。

「待て。ついでだ、お前も行け。ケネス、お前も付いてこいよ」

有無を言わさずシェリーを連れてダリルが転移し、バイロンも続いた。





2人残された部屋で、フルーリリがケネスに魔法の袋を渡す。

「ケネス、この中に山ほどお菓子を入れているわ。気をつけて行ってきてね」


袋を受け取るケネスを、フルーリリはじっと見つめる。

先ほど自分の前に立ったケネスは、ヒーローみたいだった。

決して危険があった訳ではないが、あの自分を庇おうと前に立つ背はとても高くて、頼りになるような後ろ姿だった。


「ケネス、ヒーローみたいね」

「訳の分からんことを言うな。馬鹿め」



ケネスが、はああと深いため息をつく。

そして右耳に付けていた魔石を外し、その魔石に詠唱を唱えて魔法をかけ、出来上がった物をフルーリリに渡した。


それはグレーの魔石のついた、華奢なネックレスだった。魔力で細いチェーンを練り上げ、魔石に取り付けたのだ。


「この石は、ずっと俺が身につけていた物だ。俺の魔力が貯めてあるから、危険があってもお前を守ってくれるはずだ。あの男はヤバい奴だから気をつけろよ。

俺はしばらく帰れないだろうし、これでも身につけとけ。……身につけるのが嫌なら、ポケットにでも入れとけよ」



受け取ったネックレスは、ケネスの瞳の色のグレーの石が小さく光っている。華奢なネックレスのチェーンは、フルーリリと同じ髪色の淡い金色だ。

それは上品な色合いの、なかなか素敵なネックレスだった。


早速フルーリリは首にネックレスを付けてみる。

それはとても軽く肌に馴染むものだった。

「ありがとう、ケネス。ずっと身に付けておくわ。この石の色も綺麗ね。私に似合うかしら?」



「……ああ。似合うんじゃねえか」

そう言って小さく笑うケネスに、フルーリリの心が少し震えた。


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