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16.バイロンの息子、ダリル

「ロン、これが話してた魔法の袋よ。どれだけ物を入れても、こんなに軽くて小さいの」


そう言ってフルーリリは、ダランソンに作ってもらった魔法の袋をロンに見せる。 

「これね、本当にすごいのよ。保存魔法もかかっているから、スイーツもいつまでも新鮮なままなのよ。流石ダランソン先生だわ」


大切そうに魔法の袋を指で撫ぜたフルーリリを見て、バイロンは面白くない気分になる。

他の者の魔法を自分の前で褒めるのは、自分に取ってはタブーだ。だが、フルーリリにその苛立ちを向けたりはしない。彼女は心の友だからだ。

『この苛立ちはダランソンが任務から戻ってきた時に、アイツに向けてやればいい』

そう思って、バイロンは気持ちを収めることにした。



フルーリリの話は続く。

「こっちは仕返しのブローチよ。仕返しする時に、罰を与えるものなの。このボタンを押すと、相手の鼻が一回につき3ミリ低くなるのよ。

この凄いブローチも、ダランソン先生が作ってくれたのよ。先生は本当に凄いわ」


更なるダランソンへの賛辞に、バイロンがダランソンへの憎しみを深める。

だが、フルーリリには笑顔を見せて、そんな魔法は大した事がないという風に言葉をかける。

「そうか。なかなか良い機能が付いとるな。…だが、これだけは少し手緩いように見えるの。よし、ワシが機能を追加してやろう」


そう話すとバイロンはブローチに手を翳し、長い詠唱を唱えた。

しばらくしてバイロンが満足そうに頷く。


「ほれ出来たぞ、リリ。鼻が3ミリ低くなるのに加えて、まつ毛も2ミリ短くなるようにしたぞ。まつ毛は女の命じゃからな。ついでにまつ毛のカールを抑えて、直毛になるようにもなっておる」


「ロン、凄いわ!それは完璧な仕返しよ。そんな魔法を使えば、完全勝利間違いなしね。ロンには天賦の才があるのね。魔法界の革命児だわ…!!」

瞳まで潤ませて感動する様子を見せるフルーリリに、バイロンの心は晴れた。




フルーリリに笑顔を見せながら、内心バイロンは自分自身に驚いていた。

目の前で格下の者の魔法を褒めるような真似をして、苛ついて報復に走る事をしなかった。こんな事は初めてだった。


『流石ワシの初めての友人じゃ。こんな穏やかな気分になれたのは、婆さんといた時以来じゃな』


かつて伴侶に向けた感情とは違うものであったが、知り合って短期間だというのに、目の前の少女は同士とも言える存在になっていた。

それはまるで同じ100年の時を過ごした者同士のようだ。



「リリ、いざという時は連打するといいぞ。ワシの魔法は強力じゃから、ダランソンの魔法みたいに、誰かに解いてもらう事も出来んからの」

「まあ!ロンは本当にすごいのね」

ほほほ、ふふふと今日も仲良く2人は笑い合った。






2人が楽しそうに笑い合うなか、音もなく研究室の扉が開いた。


気配もなくスッとバイロンの前に立ったのは、背が高くガタイのよい男だ。硬そうなピンク色の髪に、鋭く光る紫の瞳を持つ男。

20代後半くらいのその男は、そこにいるだけで圧倒的な存在感を見せた。


誰だろうとその男をじっと見つめていると、フルーリリとその男の目が合った。

フルーリリはハッとする。



その眼。――その鋭い瞳に見覚えがある。


この眼は前世で見た。

この瞳を持っていたのは、当時の自分よりも20歳歳下の、隣に住む男の子だった。


赤ちゃんの頃から知っていた彼は、反抗期に入ると不良グループに入ってしまった。

髪は金髪になり、タバコを吸い、夜は改良バイクでブンブン音を立てて街を走り抜けていた。

もし彼を幼い頃から見守っている隣の子じゃなければ、そんな彼を恐れて目を合わせる事すらしなかっただろう。


だけど私は知っているのだ。彼が本当は心優しい少年だということを。

グレてしまい、学校にも行かず家の前で集まった不良の友達とタバコを吸っても、皆が帰った後には吸い殻を箒で掃除をして片付ける。夜爆音で街を走り抜けても、深夜の近所では音を切って手で押して歩く。

彼は外見が変わっても、喧嘩に明け暮れても、心優しい心を持った少年のままだったのだ。


そんな少年が友達の前で悪ぶる時は邪魔をせず、声をかける事はしなかった。

彼が偽らなくてもいい1人でいる時にだけ、お菓子をお裾分けしたりしたのだ。

恥ずかしそうに小さな声でお礼を言う彼は、私にとっては幾つになっても好ましい少年のままだった。



彼はきっとバイロンが話していた息子さんだ。

その厳しいオーラは、親に悪ぶっているところなのだろう。それを邪魔するのは、無粋な者がする事だ。

ここは礼儀正しく敬意を見せる時だ。



フルーリリは静かに立つと、その男に貴族の礼を取った。

「初めまして。私はフルーリリ・カスティルと申します」



「おお、リリは礼儀正しいのう。この男はワシの愚息じゃ。87歳じゃが、27歳でいいだろう。名はダリルという。この前話した独身の息子じゃ。あの三人よりひと足先に帰ってきたようだの」

バイロンが邪気のない笑顔で、フルーリリに自分を紹介する姿を見て、ダリルが片眉をあげる。


「ダリル、リリはワシの親友じゃ。お前の嫁候補じゃぞ。大事にせえよ」

「ああ?何言ってんだ。とうとう耄碌―」

ダリルがそこまで話した瞬間、ダリルの身体が宙に飛んだ。

大きな音を立てて壁に打ち付けられたダリルに、バイロンが冷ややかな声で問う。


「…ダリル。聞き間違いかの?もうろく…ときこえた気がするが。ワシも歳じゃからの。耳が遠くなったのかもしれん」


ヨロヨロと立ち上がったダリルが掠れた声で答える

「そうじゃねえか?聞き間違えだろう」


その答えにバイロンの額に青筋が立つ。

バイロンは自身を貶める言葉を許さない。

それがたとえ自分が言った言葉に肯定しただけだとしても。


素早く詠唱を唱え、ダリルの腕を捻りあげる。

声を上げる事も許されず、腕を引きちぎるまでの威力にダリルが膝をつく。



バイロンの残虐性は何がスイッチで入るのか、それは家族にすら分からない。そして血の繋がった者にすら、残虐な行為を見せて暗く喜ぶ。

そこが彼のサイコパスと呼ばれる所以なのだろう。



そして膝をついて悶え苦しむ男は、バイロンの息子達の中で最もそんなバイロンの血を色濃く受け継いでいる者であった。



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