6. 私の秘密
散歩から帰って2人でお茶を飲むことにした。
今日のおやつはカラメルソースたっぷりのプリンだ。
散歩後半から急に打ち解けてくれた様子のエリックは、今は楽しそうにプリンを食べている。
どうやら今までの戸惑いと緊張を含んだ様子は、空腹を言い出せなくて困っていたためのようだ。
食べ盛りの子供に申し訳ないことをした。大人である私が気づくべきだったのに。
ごめんね、という思いでエリックを見つめると、にっこりとそれはもう美しい笑顔を返してくれた。
広い心で許してくれるエリックは、やはり天使に違いない。
悪役成分流出疑惑が消え、未来の義弟からの断罪予定の可能性が小さくなったことに気をよくして、義弟に私の秘密を打ち明けることにした。
秘密を共有すること―それはすなわち仲間意識を育てることだ。
エリックには、ぜひ私を仲間認識してほしい。
その美しい顔で、王子とか勇者とかからの断罪に共に立ち向かおうではないか。攻略対象者ばりの美貌があれば、ひどい結末にはならないだろう。
狙うは、攻略者 vs 攻略者だ。
「エリック、私は転生者なの」
エリックの、プリンを食べていた手が止まる。
「てんせいしゃ….?」
「そう。私は別の世界で一度死んでるの。そしてこの世界に生まれ変わったのよ。前回の人生の記憶もあるの」
そう話を切り出し、私の前回人生を語った。特に山も谷もない平凡中の平凡を誇る、平穏だった人生を。
田舎だけどわりと裕福な家に生まれて、就職とともに都会へ出て、そこで出会った人と結婚し、2人の子どもに恵まれて、子育てを終え、更に歳を重ねていった平凡で穏やかだった人生を語る。
「だから私は本当の6歳児じゃないのよ。エリックも2人でいる時なら、私のことおばあちゃんって呼んでもいいのよ」
「えっ!!」
驚愕で目を見開いたエリックに、無理もないと思いながらそっと優しく微笑んだ。
「私が転生者ってことは、誰にも言っちゃダメよ。お父様にもお母様にも内緒にしてることなの。2人だけの秘密よ。
だって私が転生してるって知ったら、2人共とても悲しむわ。私の子供は、自分達より歳を取ったおばあちゃんだったなんて…って。
私だって、まだまだ若い2人を絶望させたくないの。これは年長者として墓まで持っていかなければいけない秘密なのよ」
困った顔で聞いているエリックに、声をひそめて念押しする。
「これはエリックだけに話す秘密よ。エリックだけは私の味方でいてほしいの」
そう話すと、驚いた顔をした後に少し顔を赤くして何度も首を縦に振ってくれた。
「僕はいつでも絶対フルーリリお姉様の味方でいるよ」
頼もしい返事に嬉しくなる。
「フルーリリじゃなくて、リリでいいわ。お父様もお母様も、私のことはリリって呼ぶの。
エリックは…リックって呼んでもいい?愛称で呼び合ったら、もっと仲良くなれるのよ」
恥ずかしそうに、小さく名前を呼んでくれる。
「…リリお姉様」
「お姉様って少し距離を感じるわ。姉さんって呼んでね」
そうお願いすると、ますます顔を赤く染めあげて嬉しそうに呼んでくれる。
「リリ姉さん」
「なあにリック」
私達は顔を見合わせてフフフと笑いあった。
やはり秘密を共有することは、人との距離を詰めるのに有効だ。
あっというまに私達は大親友レベルの仲になった。精神年齢おばあちゃんな私だけど、友情に歳は関係ない。姉弟だから、友情じゃなくて家族愛ではあるが。
ともかく破滅への道はひとつ潰えたはずだ。