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1. 終わりからの始まり


「心から愛する女性がいる。真実の愛を知った今、彼女以外との未来など考えられない。

フルーリリ嬢、僕との婚約破棄をどうか受け入れてほしい」


俯いてそう告げる彼は、幼い頃に政略の上で交わされた婚約者だ。



俯く彼の名は、カール・バージェント。

バージェント伯爵家の長男であり跡継ぎでもある彼は、薄茶色の髪と榛色の瞳を持った、背が高く優しげな雰囲気を持つ15歳の少年だ。

ひとつ歳上の彼は、15歳から通う事となっている学園へ今年の春から通っている。そこで出会った女性と恋に落ちたらしい。


私はフルーリリ・カスティル、伯爵家の長女である。

私はカールよりひとつ歳下の14歳なので、学園への入学は来年の春になる。



私と彼は幼い頃に婚約が結ばれている。

共同開発分野の先を見越した上での政略的な婚約ではあったけど、優しい彼とはお互いを尊重しながら共に歩んでいけると思っていた。

今まで穏やかな時間を過ごしてきたし、これからもそんな時間が続いていくと信じていたのだ。

――それは私だけの想いだったようだが。


『来年、一緒に学園に通えるのを楽しみに待ってるよ』

そう言って笑っていた彼は、すでに他の女性を愛しているようだ。このようにすれ違った想いを持ちながらこの先を共に歩めるはずはない。




今日は月に一度のカールの訪問日で、2人で秋の庭園を眺めながらお茶を飲み始めたところだった。


目の前に広がるカスティル家の庭園には、庭師によって丹精込めて育てられた秋の花々が咲き誇っており、私達はその庭園を見渡せるカゼボに向かい合って座っている。


2人の間を少し涼しくなった秋の風が通り抜ける。


その風がクセのある彼の茶髪を揺らす。

視線を下げた榛色の瞳も、破棄を受け入れることを願うように不安げに揺れている。



『今はもう貴方の心は遠いところにあるのね』

そんな諦めのついた気持ちで、フルーリリはカールを見つめた。


『もう手放そう』

心変わりをした彼にしがみつくつもりは毛頭ない。

彼の思い出に残る私を、少しでも美しく残そう。

……いつか彼が、より深く後悔するように。



姿勢を正し、声が震えないように細心の注意を払って落ち着いた声で応える。

「婚約破棄、承知いたしました。どうぞ愛する方とお幸せに」


フルーリリの言葉にカールは明らかにホッとした顔になり、少し気まずげに微笑んだ。


その顔を見た瞬間――複雑な想いが込み上がってきる。そしてその想いを言葉に乗せてしまいたい衝動に駆られる。

だけどその衝動を踏み止めるように、小さく深呼吸をして、淑女のお手本のような美しく小さな微笑みを返した。

今ここで自身を曝け出すつもりはない。


このままここにいては感情が溢れ出てしまう。あとはここを一刻も早く立ち去ろう。

彼とこれ以上同じ時間を過ごすことは出来ない。


何かを言いかけるようにカールの口が開くのを見て、フルーリリはスッと席を立ち軽く礼をする。

「ではこれで失礼いたします。さようなら、カール様」


もう二度と彼の手を取ることはない。

フルーリリは1人で足早に庭を抜け、長い廊下を抜けて自室に戻る。

彼との茶会が始まる前から側に付いていた侍女が、『温かいお茶を淹れましょうか』と気遣わしげに声をかけるのを断り、部屋を下がらせる。


やっと1人になれた。


ここは自室だ。侍女も下がらせた。

もう例え泣き喚いたとしても、誰に聞かれることも見られることもない。

震える息を吐き出し、深く息をすう。

思いの丈を言葉に乗せる。



「とんだボンクラ野郎だわ!なにが真実の愛よ!流行り本かぶれの軟弱浮気クソ野郎のくせに!!」


もう大絶叫だ。


「あの煩悩野郎!アイツの(ピー)を一生使えないよう(ピー)してやるわ!(ピー)から手ェ突っ込まれて(ピー)されちゃえばいいのよ!!とんだ浮気クソ野郎だわ!地獄行き確定よ!」





「…姉さん」


呆れを含んだ声に呼ばれる。

振り向くと、扉に寄りかかった義弟のエリックが、胡乱な目でこちらを見つめている。


見られてた!!!!







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