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運命の時間です

私が幸せになった理由

私はディアーヌ・アダマンテ。アダマンテ侯爵家の次女よ。ディアと呼ばれているわ。大きな声では言えないんだけど、十歳の時にこの王国の王太子殿下の誕生日会に参加して以来、違和感があるの。


小さな何かが体の中にあるような奇妙な感覚。そこまで気にする必要もないかしら?でも不愉快だわ。

 

違和感問題は感覚的なものだし、答えが出ないまま、学校に通っていたの。国中の貴族と試験を突破した平民が通う学校よ。この学校の成績によって就職先が決まると言っても過言ではないから皆必死よ。


魔法使い、騎士、文官、領地経営者、学者、料理人、侍女。様々な職に就くために学びたいだけ学べるの。この学校のシステムはこの王国唯一の利点と言っても良いわ。


ただ、お金次第でなんとかなってしまうのが本当に嫌。成績を変えることができてしまうの。だから本当に優秀な人たちは学校で学びたいだけ学んで他国へ行くのよ。


学校での評価は良くないから、出来が悪い王国民と評されて出国し放題。大体の卒業生は隣りの隣りの国へ行くの。その国はスゴいのよ。


学力や能力を調べて、本人の嗜好も加味して、適性が高い職を紹介してくれるし、礼儀作法も無料で学べるからか丁寧な人が多い印象ね。


自分らしく暮らせるって満足している人が多いわ。剣技を極めた騎士やマニアックな魔法使いがいるからか、国全体が発展しているし、万が一他国から攻められても負けないの。


学生時代の私はその国の高位貴族の方と知り合ったおかげで未来が開けたの。トラブルが身近にせまっていることにきづいていなかったから、あのままだったら恐ろしいことになっていたわ。


他国ではこの国の学校のシステムが評判なのですって。それになぜ優秀な卒業生が毎年他国に来るのか疑問に思って調査に来たんだそうよ。隣の隣の国は遠いのに、本来なら出身国で重用されるはずの人材が毎年来るんですもの。不思議よね。


その方、ヒューイ・グランベル様と名乗られたのだけど、魔法学の授業でご一緒した時に声をかけてもらったの。


「すみません。大変不躾ながら、ご本人のものでない魔力のマーキングが付いています。すぐ害になるものではないのですが、もしご自覚がないようでしたら私の知識でお手伝いできるかもしれません」


高位貴族の方にこんなに丁寧に話しかけてもらったのは初めてだったわ。侯爵令嬢の私の場合、公爵家か王族ってことになるけど、公爵家は私のお友だちの家を除いて、そうね、仕方ないわね。


でもマーキングされてるって聞いて驚いたけど納得したわ。違和感は勘違いじゃなかったの。私との魔力差がありすぎて感知できなかったそうなの。眩しい光の中でちょっとだけ光っているものって見えないじゃない?


グランベル様がなぜ分かったかというと、医学を学んでいらっしゃるからなんですって。小さな病変を探す訓練を受けたらしいわよ。私もできるようになりたいわ。


彼の国で作られた魔法なんだそうなの。極め過ぎるとすれ違っただけで分かってしまうらしく、それはちょっと怖いけど、でもおかげで助かったわ。


「マニアックな魔法使いがいる国だからね」

と言って微笑まれたグランベル様の素敵だったこと!美よ。美!


それにしてもこんな事をするのって、アイツしかいないわ。いやらしい目つきで誕生日会に参加している女性をニヤニヤしながら眺めていたアイツ。まだ十歳だったくせに。


そうよ。王太子よ。教養のかけらもなさそうなあのニヤニヤした顔!本当に嫌だわ。絶対に王太子妃になんか選ばれたくないわ。


そういえば数年後には王太子妃選びの儀式があるわね。待って!まさか!そういう事だったの?そういえば王妃様が選ばれた時に何かあったようなことをお母さまが言っていたわ。


帰宅後すぐにお母さまに聞いたわ。王妃様には将来を約束したお相手がいらしたそうなの。それが急に儀式で運命の王妃に選ばれてお二人は別れ別れに。当時の婚約者の方は今も独身を貫いていると聞いてちょっと泣いてしまったわ。


今の私には婚約者はいないけれど、もし私も巻き込まれているのなら他人事ではいられない。怖い。嫌だわ。どうしたらいいの?


私、お母さまとお姉さまにグランベル様に言われた事を伝えたの。お二人ともショックを受けていたわ。そして私たちは恐ろしくて泣きながら抱きしめあったわ。ひとしきり泣いた私たちは決めたの。グランベル様に助力を願う事を。先ずはお父さまに報告よ。


あれからすぐにお父さまはグランベル様に連絡を取って、領地の屋敷で会うことになったわ。グランベル様は学校の寮から領地の屋敷まで転移して来てくださったの。


ここからは全て秘密裏に、時には誓約魔法も使って対応することになったわ。誰が敵になるか分からない状況で怖いし、グランベル様を信じて良いのか迷ったりもしたの。


でもグランベル様はお父さまと魔法誓約を結んでくれた。私に害になる事をしたら右腕が取れてしまうという誓約。魔法使いにとって大切な利き腕を賭けた誓約を結んでくれるなんて驚いたけどちょっと嬉しかった。そこまでして協力してくれるなんて。

「優秀な人たちは国の宝だからね」

ってまた素敵な笑顔で。はぁ。美しいわ。

 

例のマーキングは小さ過ぎて存在は分かるけど場所が特定できなかったの。魔法で外す事はできるけど周りの神経を破壊する可能性大。無理せず儀式の日を待つことにしたわ。


王妃様の件から推察するに、儀式で魔道具から魔力の帯がマーキングに向かって真っ直ぐ伸びてくるらしいの。光の帯が届いて小さな魔力を見つけ次第、ブローチ型の魔道具にその魔力を移すそうよ。転移魔法の応用ね。


儀式の日までは目立つことはできないけど、私たちは彼の国へ引っ越す準備を始めたの。王太子の付けたマーキングを勝手に外す私はもうこの王国では暮らせないわ。


行った先でどう扱われるか分からないという不安はあるけれど、そもそも運命の出会いをねじ曲げるような王族の国では暮らせないと、家族会議で決まったの。


それに我が領地の大切な領民をこの王国に置いて行くことはしたくないから、誓約魔法を使って情報が漏れないようにしつつ、引っ越しを希望する領民の選定と準備に入ったの。

 

グランベル様の国にはまだ誰も住んでいないエリアがあるそうよ。そこは荒野で、一から街を作ると大変だからどこかの領地を丸ごと転移させたいと思って準備していたのですって!マニアックな魔法使いって発想がスゴいわ。もしかしたらそのためにこの国に来たのかも知れないわね。

 

そうだわ!お友だちの公爵令嬢ジェーン様もお誘いしたいわ。今すぐには話せないけど、今回のことが実際に起きたら引っ越したくなるかもしれないし。また一緒に過ごせたら嬉しいし。そう考えた私はすぐにジェーン様に声をかけたわ。


領民の希望を聞いたらほとんどの人が一緒に新天地へ向かう事になったわ。お父さまの領地経営はかなり上手くいっていたようなの。この快適な暮らしが続くなら是非、といった声が多かったそうよ。ありがたいわね。


整備した道路も水路も丸ごと転移するからそのまま生活できて環境が変わらないし、中には世紀の大魔法を体験したいと決めた人も居たそうよ。


一部の残る人たちも何かあれば対応できるように転移用のスクロールを手配したわ。登録した人しか使えないようになっているの。人は弱いもの。魔がさしてしまっても問題を防げるように。


ジェーン様にもスクロールを渡したわ。領地を覆う結界用のものと転移用のもの。ジェーン様は儀式を見届けた後、王国中に真実を広める役割を負ってくださったの。公爵家としての責任とおっしゃったわ。


きっと引っ越していらっしゃると思うわ。この王国の在り方に心を痛めていらっしゃったもの。それに王妃様の元婚約者の方はジェーン様の叔父さまなの。


彼の国の荒野は広くて我がアダマンテ侯爵家とジェーン様のエメランド公爵家の領地から全てを転移させてもまだ余るらしいの。広いわ。何があって荒野になったのかは知らされてないけど。


全ての準備が整ってからしばらくして、遂に儀式の日になったわ。領民は家で待機。私たちは屋敷の前に、儀式に出るフリをする為に作ったドレスをトルソーに着せて置いたわ。


門からこのトルソーまでは転移させない事になったの。念のための時間稼ぎね。王宮からこの屋敷までは割とすぐだから門がないとすぐに見つかってしまうから。それに全てを転移させる中で一部だけ転移させない技術の試験もすると聞いたわ。ちょっと不安だけど素人は黙っておくわ。


王宮に集まるように言われていた時間から一時間が経った頃、本当に光の帯が伸びてきたわ。綺麗。本当に運命の人だったのならどれほどロマンチックだったか。グランベル様が一瞬嫌悪感を浮かべたわ。珍しい。いつも和かなのに。

「始めます。少し痛いかもしれません」

「大丈夫です。お願いします」


「んっ」

思わず声が出たわ。なんて物を人の身体に勝手に!怒りが込み上がってきたわ。グランベル様は冷静にブローチの形をした魔道具に魔力を移してドレスに付けてくれたの。虹色にキラキラと光り輝くドレスはとても美しかったわ。


貴族が纏う儀式参加用のドレスには小さなクリスタルを装飾する事が義務付けられているの。このクリスタルがあるからドレスがより輝くのね。


王都に住んでいる女性全員がドレスを作らなくてはならないのに、選ばれる人は決まっている。バカにしているわ。ドレスだってタダじゃないのよ。ドレス業界は潤うかもしれないけど、色々な人の思いも踏みにじっていると思うわ。


「急ぎましょう。光の帯に洗脳の魔法が混ざっていました。長く見るのも危ない。なんて卑劣な」

グランベル様に言われて慌てて屋敷に入ったわ。玄関ホールでは、既にマニアックな魔法使いの皆さんが魔法陣を発動させていたわ。


発動中の魔法陣って綺麗よね。私も学びたいわ。魔法使いの皆さんがあまりにも楽しそうで、見ているだけの私は少し不安になったわ。信頼してはいるけど、ちょっとね。

 

私たち家族は壁際に置いておいたソファに座って見ていたわ。魔法陣の輝きは一際大きくなったのを境に段々小さくなっていったの。


「終わりました。確認してきますね。中でお待ちください。玄関扉は開けても構いませんが、まだ外には出ないでくださいね」

グランベル様と魔法使い様たちが一斉に転移して行ったわ。


「なんともスゴいものだな」

お父さまはそう言って玄関扉を開けたの。私たちも外を見たわ。

「まぁー!素敵!」

美しい山脈と湖が見える場所に屋敷があったの。


「お気に召していただけましたか?」

グランベル様が戻られたわ。全て移動させる中で、一部だけ特定の場所に移す魔法を試したんだそう。怖いわ。上手くいってよかったわ。


「領民の方々も問題なく転移成功です。道路、水路、建物に関しては見た目は無事ですが、もう少し調査が必要です。先日お話しした通り、領民の皆さんは先ずはこの領地内で過ごしていただき、面接が終わった方から領地外での活動が許可されます。その際問題がありましたら更生プログラムに入っていただく場合もあります。更生プログラムを拒否される場合はこの領地内でのみ生活が許可されます」


グランベル様はお父さまに書類を渡しながら事務的に話されたわ。

「分かりました。お互いの思惑があったとはいえ、ここまでしていただいて大変感謝しております」

お父さまがは膝をついてグランベル様にお礼を伝えたわ。


グランベル様はニコリとされて、

「アダマンテ伯爵、我が兄が治めるグランダール王国へようこそ!いずれ我がグランベル公爵家と縁続になるかもしれないのです。これからもよろしくお願いします」

お父さまが伯爵?まさか貴族として受け入れてくださったの?知らなかったわ。


「ではディア様の面接からしましょう。今日はお疲れでしょうからお休みしていただいて、明日の午後ですね。また来ます。これからはヒューイとお呼びください」


グランベル様改めヒューイ様は私を愛おしそうに見つめて、それはそれは美しく微笑まれたわ。私は思わず赤面してしまって、そのままヒューイ様を見つめてしまった。お父さまは複雑な顔をしていたけど、お母さまとお姉さまは嬉しそうにしていたわ。


こうして、ヒューイのおかげで、私は前よりももっと幸せになったの。


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