第漆話 家宝
「お礼になるか分かりませんが、地下倉庫を是非ご覧下さい。怪物の討伐のお力になれるかもしれません」
少女の父親に案内され、更に深くまで3人は足を進める。
「何か凄い事になっちゃったね。ダンジョンの奥深くにはお宝が眠ってるって聞いた事あるけど、まさか本当にあるなんて思わないじゃん」
「本当にな。ただ、全ての迷宮が明らかになった訳じゃない。ここでの平穏が他の平穏に繋がるとは俺も思ってない。最後まで気を引き締めないとな。所で、トッキーの家には家宝みたいなのってないのか?」
「美術品とか、高そうな壺とかならあるけど。このお宅や御三家みたいな本格的な物はないな。それこそ、公共施設に寄贈してると思うし。俺には必要ない物だよ。大事な物が何なのか分かってるからな」
地下の入り口まで来ると、古びた木製の扉と強固な南京錠が目に入る。父親は複製の効かないような珍しい形状の鍵を差し込み解除する。その異様な光景に3人は珍しく緊張していた。
倉庫の中は湿度が高く、何処かカビ臭い。それだけ開錠されていない貴重な場所なのが理解出来る。
その倉庫内にあったのは一つの槍と古びた書物だった。
「先祖から代々引き継いできた物です。海を渡ってきた海賊達が置いていった物なんだとか。どんな獲物でも仕留める槍と怪物に対抗する生物を飼い慣らす手綱なんだとか。ただ、槍も錆び付いていて復元するのが困難な事と、手綱も作り方だけで職人の力がなければどうする事も出来ないという有り様でして」
朱鷺田はその書物を興味深げに眺めた後、父親の方に向き直った。
「いいえ、これだけあれば十分です。ご協力感謝します。一回、この槍と書物をお借りしても宜しいですか?必ず事態が収集した後、お返ししますので」
「折角なら、綺麗にした槍と作った手綱を一緒に並べてもらおうよ。ここも、歴史あるお屋敷みたいだしさ。記念館にしたら良いんじゃない?」
「鞠理も良い事思いつくな。比良坂町の新しい観光スポットになりそうだ。他の下町なら職人もいるだろうし。槍の使い手なら1人思い当たる人物がいる。後はどう言う風に立ち回るか?だよな」
そのあとの事だった。振動に気づき、旭は咄嗟に中央に人を集め毘沙門天を起動する。2人もそれに続き、三方向に拡大するように大規模な半円型の防御壁を貼る。
「震源が近い。動くなよ、大丈夫だ。毘沙門天があって助かったな。地下に行けば行く程、リスクが高いのは承知しているけども」
「運び屋なんて、常にリスクと隣合わせだろう?何を今更。この3人なら大丈夫さ。何があってもな」
「...収まったかな。ふぅ、今日もいい仕事したな。谷川さんは長いお昼休憩に入ります。みどり君、いつも通り。昼食、作り置きして置いてね。お皿は自分で洗うからさ」
この状況でも自分のルーティンを崩そうとしない谷川に朱鷺田は呆れを通り越して、尊敬の念を抱いていた。
「谷川、今日は俺も流石に飯を作る気分にはなれないな。外食にしよう。ほら、スパゲッティ焼きそば食べに行くぞ」
「おっ、いいね!谷川さんも久しぶりに食べたいな。最近、和食ばっかりだったしさ。偶には違うの食べないと。旭もそれで良いよね?」
「おい、家主が混乱してるぞ。スパゲッティと焼きそばどっちなんだってな。俺達の住んでる所に焼きそば麺の上にミートソースをかける料理があるんですよ。カレーも美味くて、是非遊びに来てください」
「は、はぁ。郷土料理のような物でしょうか?ですが、この近くではそんな物を出してるお店はないと思うのですが?」
その父親の言葉に3人は絶句していた。先程の地震よりもショックを受けているようだ。
「おっ、旭!さっきはやってくれたな!事情も聞かずに通話切りやがって。...どうした?何かあったのか?」
「なぁ、山岸。お前の担当場所にもスパゲッティ焼きそばないの?」
「いや、うちの実家近くもじゃじゃ麺とか冷麺有名だけど。えっ、何?もしかして、今更になって都会の洗礼を受けた感じ?旭お前、何年運び屋やってんだよ」
「五月蝿いな。こっちはブランク持ちなんだよ。所で、ちょっと其方さんに頼みたい事があってさ。槍と書物を地下でゲットしたんだよ。だから復元したいんだけど、其方に職人いない?」
「旭、お前。別世界から連絡してるのか?行ってる事が完全にファンタジーの住民だぞ。現実見ろよ」
「トッキー、俺。タバコ吸って良い?」
「ダメだぞ。児玉さんの喫茶店なら灰皿置いてあるけど、もうすぐ無くすって言ってるしな」
「いや、温度差あり過ぎるから急に生々しい事するのやめて。分かったよ。武器職人なら千体にいるし、後で氷川辺りで落ち合おう。所で怪物の方は?もう来たか?」
「あぁ、毘沙門天でどうにかなったけど。体感的に間横にいる感じだったな。地下深くまで行ってたから、余計揺れが激しかった。あんな物が比良坂町を駆け巡ると考えたら溜まったもんじゃないな。とは言え、協会より南や他の区は別の奴らに任せるしかないし。後は情報共有待ちって所か」
「そうだな。壱区は後、都筑か。ベテラン勢のお手なみ拝見と行こうかな」
3人の言っている「スパゲッティ焼きそば」と言うのは新潟のB級グルメである「イタリアン」の事ですね。一応、ファンタジーやらせてもらってるんで国名が使えないのでそのような表記をしました。
カレーも有名な万代バスセンターの物ですね。懐かしいというか、給食のカレーと言いますか。あのドロっとしたカレーが偶に食べたくなるんですよね。
新潟に関連して、作者は普段洋服にこだわりがないんですが旅先だと財布の紐が緩みますし一期一会だと思って服とか靴を買ってしまうんですよ。そしたら本州コーデが完成してしまいまして。
京都の帽子、岡山のリュック、盛岡の服、新潟の靴を着ている奴がいたらそれは間違いなく作者です。通報しないでください。不審者ではありません。先代の靴も金沢で買っているので、次は何処で買うのか自分でも楽しみにしています。