第陸話 青い一族
「おーい、2人とも店出るぞ。あっ、ツケは親父さん名義で」
旭が店の戸を開け、2人に目配せをする。
地下にも関わらず、提灯の灯りもあってかここら辺一帯は文字通り華やかな場所でもある。
そのあと、お腹を叩き。準備体操でもするように腕を回しながら谷川が出て来た。
「結構良い酒飲んだからね。程よい金額になってると思うよ。うっし、身体もあったまって来たし。動きますか!」
「絶対、山岸呆れてるだろ。あっ、請求は自宅じゃなくて役所にお願いします。大丈夫です。裏金たんまり持ってると思いますので町の為に経済回さないと」
最後に朱鷺田がえげつない事を言って3人は店を後にした。
そのあと、旭は手帳を開き先ほど店で聞き込みした内容を確認していた。
情報共有されていた青い肌を持つ人々についての調査結果と言った所だろう。
「とりあえず、一回地上に戻るか。執事さんを待たせてるしな。合流して忍岡まで行くか」
忍岡の集合場所である半地下に移動し、これからの行動を考える事にした。
「何か良い手がかりは掴めましたか?それにしても良家のご子息3人が運び屋をされるとは、世の中何があるか分かりませんな」
「まぁ、俺達は一族の中でも逸れ物ですから。義賊のような物だと思って下さい。それと、三谷まで移動を願えますか?彼処は下町の中でも高級住宅地。俺達の考えが正しければ」
「高貴な一族がそこに集っている筈だ。思ってる以上に時間がない、直ぐに向かうぞ」
三谷に到着すると、3人に向かい執事が一礼した。
「私がご案内出来るのは此処までで御座います。他へのご案内は私の仕事仲間にお申し付けください」
「いや、ここまで来られれば十分だ。ありがとう。あの洋風の屋敷とかどうだ?中々良いんじゃないか?」
「旭、内覧に来てる訳じゃないんだぞ。まぁ、確かにここら辺だと1番立派なお宅だと思うが」
そんな事もお構いなしに谷川は屋敷のインターホンを鳴らしてるのだから、朱鷺田は呆れ。旭は穏やかな笑みを浮かべていた。
「お、お茶です。急な事だったのでお菓子も用意出来なくて、ごめんなさい」
「いや、此方こそ申し訳ない。緊急事態で、町民の皆さんに協力を仰ぎたかったんだ。正直言って、下町は危険だ。自身の命を守る為にもどうかご一家には地上に避難してもらいたい」
目の前にいる、青い肌の少女は目を泳がせ。客間の入り口で様子を伺っている両親や兄弟に目配せしている。
かなり警戒されているようで、家に入れてもらえただけで万々歳と言わざるを得なかった。
これもまた、朱鷺田が町長の息子だからという理由が強いだろう。
何故、大人達ではなく少女に対応させたのか?と問われれば朱鷺田が今までしてきた子供達への慈善活動の影響が強いのだろう。
下町までその話が届いているようだ。子供相手なら悪いようにはしないという心理があるのだろう。
「そんなの無理です。町長さんの息子さんには分からないでしょう?人々から奇怪な目で見られて、寄り添ってくれる人もいなくて。私達は家族しか信じられないんです。人なんて結局、分かり合える事はない。歩み寄っても否定されて、利用されて。一回頷いてくれたとしても別の意味に解釈される。人の本心なんて皆興味ないんですよ。自分の都合の良い解釈しかしないんだから」
「まぁ、そうかもな。俺は温室育ちの箱入り息子だし。正直、今日まで下町の事も知らなかった。世間の事なら隣にいる幼馴染2人の方が詳しいし、俺は親父の操り人形で色んな所に連れ回されてただけだしな。本当に最近まで、相棒が居なくなって赤子のように毎日泣いてたような奴だし」
「...ごめんなさい。貴方を責めるつもりはなかったんです。ただ、私は町長の息子さんに当たりたかっただけ。貴方自身を否定したい訳じゃないんです」
「大丈夫、トッキーは案外前向きで図太いから。...そうだな。周囲の目が気になって、世間に認めてもらえない苦しさは少しは理解してるつもりだけど、此方と其方では置かれた立場が違い過ぎる。どうだろう?お嬢さんやご家族としては、地上での暮らしを少しは検討してみた事、想像した事はあるか?」
その言葉に彼女は戸惑いながら、飾ってあった地球儀をみた。
「私達の先祖は元々、ホーネットの飛地の生まれで。狩猟民族をしていたそうです。外見は奇遇にも東洋人に良く似ていたそうで、比良坂町でも違和感なく過ごせていたと聞いています。私は自分のルーツを誇りに思っている。高貴な存在である事に変わりないから。だからこそ、一度でも良い。行ってみたいんです。始まりの場所へ」
「大丈夫。行けるように谷川さん達が頑張ったからさ。でも、その為には周囲を説得するか、自分自身を変えるしかないと思う。皆さ、そうなんだよ。世間は変えられないけど、自分自身は変えられる。そう思いながら日々を過ごしているんだ。人には寿命があるからね。やりたい事は直ぐに始めるべきだよ。ホーネットに行きたいなら、その肌を治療しよう。良い医者なら谷川さん達も紹介出来るしさ」
「この肌を治療してくれる先生がいらっしゃるんですか!?本当に!?」
旭はその言葉に彼女に丁寧に説明を返した。
「あぁ、運び屋には専属の医師達がいて。黄泉先生もそうだし、弟子やその助手と優秀なスタッフも揃ってる。というか、タイミング的に丁度良いんだよな。緑の血の改善の為に血液サンプルが欲しいって嘆いてたし。特に純粋な青い血は貴重な存在だ。その対価として、治療をお願い出来るよう。俺達が必ず説得してみせるさ」
「別に、お願いせずとも黄泉先生なら喜んで受けてくれそうだけどな。でも、これで本当の共存を実現出来る。別に四色の人種なら変に混ぜなくてもお互いに支え合って暮らしていけるんだよな」
「最終的には十人十色になれれば良いけどね。それはまだまだ先の話かな。今は四色問題を解決出来ただけで十分だよ」
「パパ!ママ!私、ホーネットに行けるかもしれないって!」
嬉しそうに両親に笑みを浮かべ抱きつく少女の姿を3人は見守っていた。