第弐話 作戦会議
「あっ、旭さん!お帰りなさい!」
希輝に出迎えられ、いつもは会議を嫌がる旭も満面笑みで席についた。
「一仕事した後は気持ちが良いな。風呂上がりと同じ気分になる」
「谷川さんも久しぶりに銭湯に行きたくなったよ。でも、これから戦闘に向かうけどね。わっはっはっ」
「やめてくれ、谷川。一気に氷点下になったぞ。絶好のスキー日和だ」
軽快な三人衆はさておき、節子は勿論だが今回は瑞稀や亘も会議に参加すると言う珍しい状況で進行する。
それだけに下町での出来事というのは危機的状況だという事が分かるだろう。
「比良坂町には大きく分けて、9個の下町と呼ばれる住宅街があって特に協会や町役場のあるここら辺一帯はアリの巣のように複雑に街並みを形成しているの。そこを担当している運び屋もいるわ」
「確か、忍岡や角筈の集合場所も半地下のような感じになってるんだったか?」
児玉が山岸に目配せすると、それに頷いているようだった。
「あくまでも半地下だけどね。運び屋は身軽とは言え、俺達は大所帯だし狭い通路に大人数でいる訳にもいかないからな。集合場所として、利用させてもらってる。俺と翼の密会場所みたいな感じかな」
「いやそれ、密会どころか見せびらかしてるでしょ!節子さん、山岸さんの話は無視して良いんで続けてください」
「ふふっ、お2人は本当に仲が良いのね。幸運な事に皆んなの力を合わせれば、それぞれの下町に移動可能よ。細かい動きが必要なら現地の運び屋に頼むという事も出来るわ。今回も豊富な探索と戦闘スキルが要求される。通常のメンバーもそうだけど。ベテラン勢である旭さんや青葉さんの助けも借りたいの。どうか、よろしくお願いします」
節子がお辞儀をした後、望海の隣に座っていた零央が首を傾げながら声をかけてきた。
「ねぇ、もしかして?れおのでばん?」
「そうですよ、零央君!ただ、私達が行ける下町の範囲が多すぎます。ここの近くはそうですし。都筑、那古野、洛陽、小坂」
「生田、後、筑紫方面もか。これは目が回りそうだね。瑞穂達4人もこっち来て!役割分割しよう!」
「なら、浅間達にも手伝ってもらわないとな。4人もこっちに来てくれ!作戦会議をする」
その会話を聞きながら山岸達の方でも、作戦会議を始めた。
「とりあえず、旭達はここ周辺の攻略という事で大丈夫か?」
「あぁ、北部の大友と千体はお前達に任せる。任せておけ、ようやく3人揃ったんだ何があっても大丈夫さ。おい、2人とも個別で作戦会議をするぞ」
「寿彦さん、昨日の状況を見るに。千体は危険だわ。出来るだけ、人数を集めましょう。那須野さんや翼君もお願い出来るかしら?」
「前回は皆、散り散りになってたが今回はチームとしての連携が鍵になるって事だな。了解した。俺達も千体に向かう」
「逆に隼達は大友に向かった方が良いって事ですよね。同じく初嶺も同行させるべきだ。これはまた、忙しい事になりそうっすね」
会議室では、各グループに分かれ作戦会議を行っている。
そんな中で、共通してある疑問点が生まれた。
「節子さん、一つ質問が。地下にいる怪物を私達は捕獲するか?討伐すれば良いという事でしょうか?」
「そうね。正直言って、その怪物というのは伝承に近いとされているの。だから、私も爺やも御伽話だと思っていたのね。だけど、物理的に存在する事が分かって。私達も手を焼いているという事なの」
担当の振り分けが決まり、節子が黒板や地図に書き込んでいるのを見ながら光莉は顎に自身の手を当てていた。
「成る程ね。じゃあ、実際に下町に行ってその怪物もそうだし。対象方法も自分達で見つけないといけない訳か。因みに、御伽話だとどういう風に言われてるの?」
「地底深くに住む、大蛇と言われていてね。彼が目を覚ますと自然災害が起きると言われてるの」
その言葉に付け加えるように瑞稀も口を開いた。
「私も乳母の御堂から聞いた事があるよ。各下町に定期的に移住して、姿を隠しているとね。しかし、不思議な話だ。比良坂町に昔から伝わる話がどうして今になって姿を現したんだ?」
「この一年だけでも大忙しだったからな。大規模火災、壁による地震と取り壊し。そして昨日起きた誘拐事件と秋津基地との戦闘。怪物もそれは驚くだろう。無理もないと僕は思うが」
「確かに亘さんの言う通り、この一年で比良坂町は随分と様変わりしました。運び屋もメンバーも増えましたし、行動範囲が広くなったグループもあります。この出来事は一連の騒動の締めくくりに相応しいのかも知れませんね」
「巻き込まれる側としては些か不満に思う事もあるけどな。まぁ、俺たちらしいとも言えるだろう。とりあえず、俺たちは洛陽。浅間達は小坂方面で問題ないか?」
「えぇ、大丈夫です。近くにいてもらえれば何かあった時にも連携が取りやすいですし。ただ、下町は私達にとって未知数の領域です。準備は慎重にすべきかと」
その言葉を聞いて、希輝は零央に目線を合わせ少ししゃがんでいる。
「零央君みたいにナビゲートが使えると便利だよね。内部構造も直ぐに分かるだろうし」
「パパ!れお、ほめられちゃった!」
「そうだな。零央の力が必要なら小坂に向かわせるのもありか。圭太、お前はどうする?俺達と一緒に行くか?」
「僕は自分で移動出来ないし。姉貴について行くよ。ただ、懐かしいな。向こうにも下町じゃないけど、似たようなのがあって地下通路になってるんだよね。ギルト同士を結ぶ」
「そうですよね。元はと言えば、圭太がいた国が本家本元という訳ですから。似たような物が他の国にもあるという事ですよね。では、向かいましょうか!皆さん、検討を祈ります!」
望海の号令によって、各グループの運び屋はそれぞれの目的地に向けて移動を開始した。
「参ノ式」は比良坂町に立体感を出す為に、七不思議というか都市伝説のようなオカルト要素を含んだような作風になっています。
あらすじや節子の言葉にもあるように九つの迷宮というのは地下鉄のある9都市、札幌=大友、仙台=千体、東京、横浜=都筑、名古屋=那古野、京都=洛陽、大阪=小坂、神戸=生田、博多=筑紫の事ですね。
名古屋だけ何故か、読み方そのままなんですが仕方ないんですよ。地名の歴史が長すぎて他に候補がありませんでした。
地下鉄を選んだ理由としては、新幹線との相性を考えた時に延伸した状態を生かせて現実では不可能かつ、ファンタジー要素も詰め込めそうな物として1番に候補が上がったのがこれでした。
地下はロマンがいっぱい!と言う事でお住まい地域の地下がとんでもない事になっている可能性がありますので先に謝罪しておきます。
主なモチーフは話を進める事に分かってくると思いますのでお楽しみに。




