第壱話 下町
この比良坂町には“下町”が存在する。そんな噂を耳にした事はあるだろうか?
それは概念や風情として存在しているのではない。
物理的に比良坂町の“地下”に存在しているのだ。
「爺や、連絡ありがとう。それで、地下に避難されていた方々はご無事なの?」
秋津基地との激しい戦闘の中、町民達は核シェルターへと避難していた。協会の側にも無数に存在し、各中心街にも設置されている。
火災の際にも使用され、この一連の事件で大活躍していた場所でもあった。
忍岡にも入り口があり。その戦闘の翌朝、望海達が朝日を眺めている中、節子は執事に案内され住民達の安否を確認していた。
とてもじゃないが、会長令嬢である彼女には相応しくないだろう彼女の足元には年期が入り錆びついた螺旋階段があり、所々蔦が纏わりついている。しかし、節子は不快に思う何処か胸を高鳴らせていた。
父親と同じく、冒険心が疼くのだろう。
「周辺地域の皆様は冷静に対処されておりました。以前の火災から危機感を募らせていたご様子でしたので、避難もスムーズに行う事が出来ました。千体でも青葉様がご対処されていて、それはもう立派なご活躍でしたとも」
「そうでしょうね。流石はベテランの運び屋。山岸さんの相棒だわ。だけど爺や、下町というのは不思議な所ね。ここでも、沢山の運び屋が活躍しているんでしょう?爺やなんか最古参じゃない。とても誇らしいわ、敷島家にいつも尽くしてくれてありがとう」
彼の燕尾服の襟元には橙色のバッチが光る。地下を担当する運び屋達はそれぞれの担当場所に合わせ、地下専門の団体からバッチが贈呈される。最古参である彼にはその色が与えられた。
「滅相もございません。私は私の役割を全うしているだけでございます。所で節子お嬢様、爺やから大切なお話が」
その真剣な顔に節子は驚くものの、耳を貸すと衝撃の事実が告げられた。
「嘘でしょう?もう何年も動いていなかったのに突然“目を覚ますなんて”」
「ただ、あり得ない話ではないのです。目撃情報も複数存在しておりまして、この騒動で目を覚ましたのやも。ただ、地下の運び屋では太刀打ち出来るかどうか?」
「そうよね。多忙にはなるでしょうけど戦闘のプロフェッショナルに任せましょう。丁度、皆さん屋上にいるようだし。瑞稀さんや亘さんも参区や肆区の様子を見に行ってる頃合いだわ。情報共有しておかないと。後で大変な事になる」
節子が丁度、協会の屋上に向かおうとすると颯と隼に遭遇した。
「丁度良かった。皆さん、上にいらっしゃる?」
「あぁ、いるけどよ。...もしかして、何かあったのか?昨日に続いて?」
その言葉に節子は顔を真っ青にする。颯は病弱なのは彼女も理解している。だからこそ、体に無理をして欲しくないのだが緊急事態である事には変わりなかった。
「大丈夫。颯先輩、今日は平熱だからこき使っても何とか保つでしょ。とりあえず、皆んなの元に戻りますか」
「えぇ、隼さん。ありがとう。ちょっとね、下町が危険な状態なの。このままでは二次災害になる可能性がある。皆んなの力を貸して欲しいの。旭さんや青葉さんも含めてね」
そう言うと2人は目を合わせ、頷いていた。
「青葉先輩って、昨日。千体の核シェルターにいたんでしたっけ?」
「えぇ、周辺住民の避難誘導をね。だけど、その時。変な呻き声を聞いたの。最初聞き間違いかなと思ったけど、そうではなかったと言う事よね?敷島のお嬢さんが言うには」
「えぇ、爺やから連絡を頂いたの。地下で謎の怪物が蠢いているって。最初、避難されていた方々も戦闘による物音だと思っていたらしいんだけど良く聞いたら青葉さんと同じく生物の呻き声がするんですって。ただ、ごめんなさい。私も下町には詳しくなくて。爺やから少し話を聞いたぐらいなの」
そんな会話をしていると皆、一同に朱鷺田に視線を向ける。
彼なら比良坂町について詳しいだろうと思っていたようだが、本人でさえ戸惑うような有り様だった。
「俺はそんな便利屋じゃないぞ。まぁ、親父なら詳しいかも知れないが余り頼りたくないしな。他を当たってくれ」
「良いじゃないかトッキー。頼るんじゃなくて、脅せば良いんだよ。証拠品なら幾らでもあるしな。決まり文句も考えておけば上等だ」
「あっ、谷川さん。良い事思いついた。みどり君、ちょっと耳貸して」
そのあと、谷川が放った言葉に朱鷺田は震えながら笑いを堪えていた。
「親父、良い朝だな。清々しいよ。良い気分だ」
「...なんだ?町役場にまで来て、話したい事というのは?これから朝の会議があるんだが」
その後、側にいた旭は全斎との密会写真や録音音声を目の前で見せると共に、大音量で再生し始めた。その顔は満面の笑みそのものだった。
「わー、凄いね。谷川さんもこれなら毎朝スッキリ起きられそうだよ。町内放送で毎日流してもらおうかな」
「さぁ、親父。もう逃げられないぞ。まさか、この後に及んで記憶にございませんなんて言わないよな?お袋から認知症になりましたなんて話は一回も聞いた事ないぞ。前回の健康診断も問題なかったみたいだしな」
「分かった。旭、その音声を止めろ。それ以上にどうしてお前がここにいるんだ?私はてっきり、縁と一悶着あったのかと」
「まぁ、半分正解で半分間違いかな。敵を騙すならまずは味方からってね。親父さん、下町について詳しいらしいじゃないか?俺達にも教えてくれよ」
そう言うと彼は冷や汗を掻く。その様子に朱鷺田は察してしまった。
愛人や隠し子はそこで生活し、彼から資金援助を受けているのだと。
「旭、そんなに脅すなよ。親父が可哀想だろう?相手には相手の事情があるんだ。なぁ、親父?お袋がこの事を知ったら、何をしでかすか分からないぞ?仲介役になってやるから。俺にだけ教えてくれ」
顔を真っ青にしながらも、それはもうご丁寧に全区のシェルターはもちろん、下町の位置まで教えてもらった。
3人はこの情報を持ち帰り。会議室へと向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
お休みを頂いてる間に、鉄道成分という名の鉄分を摂取しようと思って新幹線を利用したんですけど1月の下旬に停電の影響で東北・上越・北陸新幹線が運転見合わせ状態で結構混乱してた時があった思うんですよ。作者もその時、新幹線を利用してたんですが幸運な事に東海道新幹線を利用しておりました。
完全にプライベートでその時、たこ焼きにハマっていて関東民なので銀だこを食べていたんですけどやっぱり関西のトロっとしたたこ焼きが食べたいなという事で大阪に行っていたんですね日帰りで。
作者は一時的おにぎりガチ勢だった時もあるので、富山や新潟に美味しいお店があると知ってそれだけの為に新幹線を利用するという純粋で不純な行為をした時もありました。
当日の朝、ルーティンのように皆の名前を確認していたんですよ東京駅でその時はE7系の姿も見てましたし「たにがわもちゃんと働いてるな、偉いぞ」と心の中で思って見送ったのですが。大阪に到着して道頓堀にいた時にニュースをやってて上野ー大宮間で停電が起きたと聞いて凄い驚きましたね。
そうなるともう東京駅で通常運転を行っているのが東海道新幹線しかないので「うわっ、危なっ!違う所に行ってたら帰れなくなる所だった」と不安な気持ちもありながらも楽しい一時を過ごしました。
作者が大阪に行くと不思議な事が起こるようで、日帰りでUSJに行った時も当日雨というか雪予報なのを知らなくて行ってしまったんですが運良く晴れてて、朝一の新幹線で行ったので疲れてしまって自由席で乗車券を取ってたし「早く帰ろう」と新幹線に乗った矢先に雨が降り出すという珍事が起きました。
もし、何かあったらそれは作者が大阪に行ってる時だと思ってください。
今作の後書きにはそれぞれの話の内容に合わせて思い出という名の珍事を書きたいと思っています。よろしくお願いします。