シンクロ
雨上がりの午後、私は歩いていた。
見慣れた下校途中の風景。全てがいつもと同じ。繰り返される日々の中、何も変わらない。
隣には、毎度お馴染みの友子が歩いている。
私と友子は親しい間柄で、一緒に下校するのはもう日課と化していた。けれど心では、彼女のことを余り良くは思っていなかった。
毎日歩く道は見慣れているはずなのに、ふといつの間にか異質に映る時がある。
――私は迷子だった。何も分からないまま、ただなんとなくレールの上を歩いている。
もし分かったとしても、道から外れて自由に進む勇気はあるのかな。
そんなことを考えながら、ぼんやりと地面を眺める。雨粒が集まった水たまりに光が注がれて、キラキラと反射していた。
「ねえねえ」
「なに」鬱陶しい、と私は思った。
「ちょっとこれ見てよ、ねえ」
仕方なく友子の要求に応えて、そちらへと視線を向ける。
「なによ」
友子の顔を見ると、彼女は自分の目を指差していた。
「ほら見て。見てよ」
「だからなんなのよ」
「ねえ、両目が同じ動きしてるでしょ」
確かに両方の目が同じ動きをしていた。それがなんだというのか。
尚も友子はまくし立てる。
「ほら、ほら、同じ動きしてるでしょ。全く同じ動き。ほら、同じように動く」
友子は、両の目玉を上下左右にと繰り返し動かしていた。グルグルと回してみたり、縦横無尽に操っている。
――ハッキリ言って、気持ち悪い。
「はぁ……。それが。どうかしたの?」
「だって、スゴいじゃん! 同じに動くんだよ? スゴいよコレ!」
呆れた……。
私は呆れてものが言えなくなった。
「あれれ。なんか、怒ってる?」
私は無視して答えなかった。
くだらないことを言い出した彼女が悪いんだから。
「怒ってるんだね……変なことわめいてごめん……」
そのまましゅんとしてしまう友子。
次の瞬間、友子の両目がバラバラに動き始めた。カメレオンの目玉と同じで、別々に細かなステップを刻む。
余りに突然の出来事だったので、私は不覚にも驚いて飛び上がってしまった。
「あ! 由美も目! 両方とも同じになってるよ!」
「え?」
――どうやら私の両目も、さっきの友子みたいに同じ動きをしているらしい。最初は気づかなかったけれど、慣れたら自分でも段々と分かってきた。
ふーん。これがそうなんだ。バカらしいね。
……だけど、なんだか楽しくなったので、私は友子と一緒に大笑いした。
笑いながら、なんとなく空を見上げる。棚引く雲の隙間から、虹色の光が見えた気がした。
文章的に序盤とラストは少し苦労しましたが自分らしい作品が書けました。
思春期に揺れる女の子の青春と友情、それを心象と共に「シンクロ」という要素に短く乗せました。
元は夏頃に書いた作品です。後に書き足した結果、自分の中で秋の様な春の様な印象になりました。
不可思議な要素がある物語なので、季節が混在してる雰囲気もあっていいかなと思ってます。
今回は、自作でたまに登場する名前「由美」を主役に据えた作品です。
友人役には、解り易く「友子」という象徴的な名前を付けました。