【挿絵あり】脇役だって主役です ~転生を繰り返したサブキャストは結末を知りたい~
世界は無限に存在する。
いわゆる異世界ってヤツだ。
元々俺だって、現代日本で交通事故に巻き込まれて死ぬまでは、これほど多種多様な世界が溢れかえっていたなんて思ってもいなかったよ。
てっきり小説やマンガ、物語の中だけの空想、ファンタジーの産物だと思っていたんだ。
世界が沢山あるように、それぞれの世界には世界を創り出し継続的に管理している神様がいる。
神様は本来の生命を断たれた者達に新たな役目や能力を与えて新世界へと送り出し続けている。
俺がこの『転生の間』と呼ばれる純白の空間に招かれるのも、既に五回目だ。
最初の内は一々驚いて、神様たちに対して恐縮しまくりだったが、大分慣れた今では平常心を保っていられる。
目の前に神様が現れた、いつも通り仲良く三人揃っている。
中央に立っている主神様が俺に向けて言う。
「ご苦労様です、今回のキャスティングは冒険者ギルドの受付嬢Bですね、こちらが台本ですよ、はいっ!」
俺は軽く会釈しながら『台本』を両手で受け取り、一歩下がって中を確認した。
想像通り中は真っ白で何も記されていない。
それもその筈、台本の中身、ストーリーはこれから神様たちが様々なアイディアを、持ちより組み立てて完成させていくのだから。
俺始め登場人物たる転生者達は、主役端役の違いなく、そうやって作られた物語をしっかりと演じていくのだ。
こうやって個々に役目を与えられたキャスト達は、神様のストーリー作りが進んで行くのに合わせて、何回かの本読みや立ち回りの練習を経て、冒険の旅本番を迎えるのである。
慣れない様子で冒険者ギルドに姿を現した少年、彼に声を掛ける俺の声はうら若き女性の物になっていた。
「冒険者ギルドにようこそ、本日はどのような御用件でしょうか?」
勿論声だけじゃなく、容姿や服装、各種能力に至るまで、若く美しいギルド職員に相応しい物が神様たちから恩寵として与えられている。
挙動に困る事など無いのである。
「冒険者登録ですね、それではこちらにご記入ください、手数料は銀貨二枚になります」
物語は順調に進み主人公の少年、アレフは始めての依頼『ゴブリン討伐』に出掛けていった。
ふう、今回の出番も無事終了できたようだ、俺は一旦『転生の間』へと収監され、次の役どころの準備に掛かるのであった。
実は今回は今までの転生と違って些か忙しいのである。
一人五役、俗に言うファイブロールってヤツなのだ。
大急ぎで台本に目を通し、最終確認を終えなければならない。
こうしている間にも主人公の物語は進み続けているのだ、遅れたり立ち回りを間違う訳にはいかないのである。
何とか復習を終えた瞬間、俺の体が白い光に包まれる、本日二回目の転生だ。
気が付いた瞬間、ギルド併設のバーの椅子に腰掛けていた俺は、体中に力の漲りを感じていた。
今の俺はこの町でもトップクラスの実力者、Aランク冒険者『魔剣使いのレッド』なのである。
テーブルに置かれたエールを一気に煽った俺は、横に立てかけてあった自慢の魔剣を掴むとギルドのカウンターに向かって歩く。
目当ての人物に近付いた俺は出来るだけガラの悪そうな声音で話しかけた。
「おいおい坊主、ここはテメーのようなガキが来る場所じゃねーぞ! ガキはガキらしく家に帰ってママのオッパイでも吸ってろや!」
後は良くある流れの通りに、さっきまで同僚だったギルドの受付嬢Aに窘められたり、他の冒険者に煽られたりしてから、お約束のギルド奧の訓練所で主人公にあっという間に倒されて気を失うのであった。
その後も主人公アレフに無意味な粘着と妨害を繰り返して、何度かぶっ飛ばされたりもした。
主人公が独自のスキルで目に見えて突出した実力を見せ始めた頃、町を襲った魔物暴走、スタンピートに対処する中、危機を救われた事もあって急激に仲良くなり、彼が勇者パーティに入る為に王都へ向けて旅立って行くのを手を振って見送り、冒険者レッドの出番も終了となった。
またもや収監された俺は、転生者控え室で次の出番までの間、ゆったりと休憩しつつ台本の文字を追うのである。
神様謹製のこの台本は俺を含む多くの転生者にとって、密かな娯楽ツールとしても人気のアイテムであった。
最新部分の空白ページには、神様が物語の続きを造り進めると同時に、グレーの文字が書き足されていき、現在主人公が進行している部分は濃い黒色に更新されていく。
既に黒文字に変わった部分に指を当てれば、その部分の情景が映像イメージで傍観できたり、更には登場者目線で追体験できるという、死ぬ前の世界で言えばラノベと動画、VR体験まで楽しむ事が出来る優れものであったのだ。
次の登場、いや転生まで数週間の時間が貰えていた俺は、この機会に我が神々のこれまで作り上げてきた世界について堪能させてもらう事にした。
控え室の隣には、これまで書き溜められてきた様々な世界の顛末、創世記と呼ぶべき物語が豪華な書棚に並べられている。
俺は目に止まった数冊の書籍を手に控え室に戻ると、エスプレッサーからデミタスカップに注いだドッピオの濃厚な香りを楽しみつつ、一冊目のページを開いていった。
ページを斜め読みしながら気になった場面を傍観したり、ロマンチックなシーンなんかを追体験しちゃったりしながら読み進めていた俺は不意に現れた空白のページに驚くのだった。
「あれ? 最終更新日が数年前だったからてっきり…… そうか、まだ途中の物語を持ってきてしまったのか、残念だが終わったらもう一回読むとしよう」
その後一緒に持ち出して来た数冊の物語も確認してみたのだが、余程うっかりしていたのか、揃って途中、書き掛けの物を持って来てしまった様である、迂闊だった。
もう、それ以上は読書の気分ではなくなってしまったので、一旦全ての本を返した後は、自分がいま関わっている物語に集中する事で日々を過ごす事に決める。
何しろまだまだ三役分残されているのである、何度熟読してもし過ぎと言う事は無いだろう。
そして物語は順調に進み、三度俺の出番がやって来たのだ。
「おにいちゃん! おかえりなさい!」
嬉しさを表情に溢れさせ、元気一杯に自宅の扉を開いた俺の前には、申し分けなさそうに肩を落とした主人公の姿があった。
今回の俺の転生先は、主人公が加わったパーティーのリーダー、勇者の妹、十歳のアーニャである。
冒険の途中、主人公一人を残して不慮の死を遂げてしまったパーティメンバー、勇者、賢者、聖女が残した遺品を届けに来た主人公の胸を借りて一頻り悲しみの涙を流す俺。
悲しみを乗り越えて、勇者だった兄と共に亡くなった幼馴染の聖女の遺品を、主人公と共に町の教会に届けてそのままそこで働く事を決めて今回の出番は終了となった。
収監されて『転生の間』に戻った俺は大慌てで次の転生の準備に掛かった。
因みにこの収監という言葉からも分かると思うが、俺達転生者には基本的に自由はない。
時間がある時であれば、控え室で過ごしたり読書をする位は自由なのだが、転生して物語に関わっていない時は囚人と一緒なのである。
まあ、そのまま死ぬより余程良いと、最初に快諾した条件だから仕方ない、実際死ぬよりずっと良いしね。
「待っていたぞ新たなる勇者アレフよ! 我こそは古の大賢者マイストの魂!そなたに宝を遣わす為にここ、深淵の森にて待ち続けていた! さあ、受け取るが良い! この『不滅の種火』を!」
重要だが短めの出番が終わった。
すぐ次の出番だ!
「なんじゃと、おい若いの! アレフと言ったか? お主が手にしている、そ、それは、まさか!
よっしゃ、作ってやるぞ、その火を使って魔王を倒せる唯一無二の聖剣をなあ、こりゃあ腕がなるわいっ!」
「ふうぅ~」
収監されて戻って来た俺は珍しく長めの息を吐いた。
初のファイブロールはやっぱりそれなりに疲れたが、同時にやり遂げたという充足感も比例して大きい物であった。
アレフの物語も暫くは続いていくのであろう、俺はこの『台本』を通して物語を楽しませて貰うとしよう。
控え室に戻った俺が、コーヒーでも飲むかと立ち上がった時だった。
「あれ?」
白い光に包まれた俺は次の瞬間すぐ隣の部屋、『転生の間』に招かれていたのであった。
「?」
「ご苦労様です、今回のキャスティングは婚約破棄された公爵令嬢に健気に仕え続ける理解者のメイドです、これが台本です、はい、どうぞ」
キョトンとする俺に笑顔で台本を渡してくる神様、どうやら違う物語にキャスティングされたようだ。
転生者たる自分に拒否権など当然ない。
大人しく台本に記されていく物語を熟読しつつ、物語の開始を待っていたのだが……
結果として俺はこの物語にキャスティングされた事に多いなる喜びを感じる事となった。
婚約を解消されたお嬢様は、悲しみを乗り越え実家の公爵家の立て直しを成功させると、持ち前のバイタリティで畑違いの領地経営に纏わる諸問題を次々と解決していった。
その評判は王都にも伝わり、国全体の問題に意見を求められるまでになり、一度は自分を捨てた王太子に復縁を求められてもいた。
しかし、ここまで自分を支えてくれた数々の協力者(男性)達の好意に気付いていたお嬢様は結論を保留に……
気持ちを切り替えるように前だけを向いて国家経営に向き合うお嬢様にさらなる難問が!
同盟関係にあった西の隣国が東と南、二つの国家と手を組んで一斉に軍事行動を起こしたのである。
侵略の意図を探る為と敵情視察、あわよくば説得の大任を仰せつかったのは他ならぬお嬢様であった。
お供は叶わず公爵家に残る俺は馬車に乗り込むお嬢様に声を掛ける。
「お気をつけていってらっしゃいませ、ご成功をお祈りしています」
彼女はいつも通りの笑顔を向けて俺に答えた。
「ええ、マリアの紅茶の味を忘れないうちに戻りますわ」
そして、俺はお嬢様の乗った馬車を見送るのであった。
「へ?」
純白の空間『転生の間』、俺の目の前にはいつも通り三人の神様が、
「ご苦労様です、今回のキャスティングは能力不足の冒険者を追放するギルマスですよ、しっかりザマァされて下さいね! はい、これ台本、がんばって!」
「は、はあ……」
「おいジュード! お前は本日を持って追放だ! 異論は認めん! 今日中に荷物を纏めて出て行けっ!」
大きな声で言って、悪そうな顔で主人公を睨み付ける。
渾身の演技を続けながら俺は心中で願った。
(ウチの神様たちが、今度こそ完結してくれますように)
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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