第八話 ダンジョン
ふあぁぁぁ、よく寝た~。
おふぁよ~セフィアー。
『…………』
……んっ?
おーい、どしたー?
寝ているのか?
つか魂だけの状態で寝たりできるのかは知らないけど。
セーフィーアー!! 起きろー、もう朝だぞー。
『起きてるわよ!! ほんっと朝からうっさいわね!!』
うわっ!?
起きてるんなら言えよ!!
ビビるだろうが!!
『あんたを守るためだけに夜更かししてたこっちの身にもなりなさい!!』
あっ………わ、悪い、そりゃあ怒らせて当然だよな……
………スンマセン。
『……で? どうするの?』
早速その封印とやらに行こうと思ってるんだけど。
『そ。でも、大丈夫なの? レン、ろくに戦えないじゃない』
………そうだケド。
じゃあどうすればいいんだよ。
ろくに戦えないのは当たり前だろ、そういう世界につい昨日までいたんだから!!
『ま、じゃなきゃ赤子以下のステータスになんてならないわよね………』
そうそう……って、は!?
赤子以下って………いやいやいやいや、じょ、冗談はやめろよ。
『あ、ごめん……聞こえちゃってた?』
と、小声ながらも謝るセフィア。
…………
な、なんだよその反応。
いくら一般人以下とはいえ赤子以下は言い過ぎだろ。
『…………』
……だからなんなんだよその反応!!
嘘なんだろ?
そうだよな、そうだと言ってくれ!!
『………レ、レベルが上がったらステータスもちゃんと上がるから安心して。ね?』
そ、そうだよな、元々が低いだけでたぶん他の人の倍くらいの伸びしろがあるんだ、そうに違いない。
『………』
と、とりあえず、行くに越したことはないだろ。
ってことで出発!!
よしセフィア、地図を用意してくれ。
目の前に昨日も見た地図が音もなく現れる。
命の恩人である天使様から最悪の知らせを聞いた俺は、そのまま地図に従い先へと進んでいった。
数十分後。
「だあああくそおおお、全然進まねえええ!!」
俺は大声で(泣き)叫んでいた。
しかし、これにはもちろん訳がある。
『もう少し静かにしなさいよ……』
「はぁ!? いや待てよ、俺にも言い訳させてくれ……何で三十分近く歩いてんのに地図のほうではミリ単位しか進んでねーんだよ!!」
『レンの歩くスピードが遅いだけなんじゃないの? レベルアップしてスピードを上げなさい』
俺の歩くスピードが遅いだけ?
そんなわけねーだろ!!
これでも結構早めに歩いてたんだぞ!?
もしそれでも遅いってんなら、それはお前の中の基準がおかしいだけだよ!!
人間と天使様を一緒にするな!!
『ハイハイ、悪かったわよ……』
つか、こんだけ歩いてんのにこんだけしか進んでないはずがない………
この地図、壊れてるんじゃないか?
『そんな訳ないでしょ』
そーだよなぁ……
でもここまで広いとか有り得んだろ。
『仮にもここは、世界一広いダンジョンってことよ』
めんどくせぇ………
このダンジョン、どのくらいデカイんだ?
端から端まで普通に百キロ近くありそうだよなぁ。
つーかさ、さっきから気になってたんだけど………
『何?』
何でこんなに歩き回ってるのにモンスターが一匹も出現しないんだ?
昨日はもっとモンスターがいたと思うんだけど。
『当たり前じゃない。〈威圧〉ってスキルを使ってるからね』
……は?
いや、めちゃくちゃ初耳なんだけど。
『言ってないからね。と言うか、昨日からずっと使ってるんだけどね』
えっ、そうなの?
あーそっか、俺が寝てる間それで守ってくれてたってことね。
でも、ずっとスキルを使用するのって大丈夫なのか?
『〈威圧〉くらいなら全然大丈夫よ』
ふーん………
ちなみに、その〈威圧〉のスキルを受けたモンスターってどういう影響を受けるんだ?
『〈威圧〉を使用した者から濃密なまでの殺気を受けるって感じね』
ほー、それで?
『それでって何?』
えっ……そんだけなの?
殺気を受けるだけ?
『そう言ってるでしょ』
……あんまり効果無さそうな気がするんだけど。
『じゃ、あなたは街中で殺気をガンガン放っているようなヤツに、積極的に近づこうとか思う?』
………思わないッス。
大体そういうヤツは通り魔だったりしそうだよな。
まあ、これはあくまで俺の偏見に過ぎないが。
『それに、私くらい上位の存在になると、効果も凡人の数十倍になるのよ。そんなものを常時使用していたのよ? ホント感謝してほしいわ』
そーッスよね………
ん? おい待てよ。
俺にレベルアップしろ的なことをほざいてたよな………
そのくせ、それをセフィア、お前が……いや貴様が邪魔してたのか……?
おい……なあ、どういうだ?
『あ……いや、えっと…………』
てめえ、自分でも分かってなかったんじゃねぇか!!
とりあえずさっさと解除しろ!!
『あーうん………』
ダンジョンのなんとなく重々しかった空気がほんの、ほんの少し軽くなった………気がする。
うーむ……効果が目に見えないため、本当に解除されたのか分からないが、このまま歩いていたらそのうちモンスターとも鉢合わせるだろう。
よし、じゃあダンジョン攻略の再開だ。
『さっきまでの弱気な態度はどこへ行ったのよ……というか、いくら私からの恩恵があるとは言え、過信しないでよ。死んじゃったらもうそこで終わりなんだから』
フッフッフ、セフィア、君は男のロマンというものを理解していないようだ……
ダンジョンと言えば……レベル上げ・強ボス・ヒロインの、この3つだ!!
ヒロインはもう既にセフィアがいる。
そして、俺の実戦経験の無さとステータスの低さを考えるに強ボスも却下。
となると、あとは消去法でいくとレベル上げだけだ。
というわけでレベル上げだ!!
『……これ、私の肉体の封印を解くっていう当初の目的のこと、完全に忘れてるっぽいわね………』
セフィアが愚痴るように呟いたが、その言葉は俺に届かず虚空へと消えていった。