第四話 モンスター
すいません、投稿が遅れてしまいました。
ダンジョン内に俺のスニーカーの音が響き渡る。
はぁ……疲れた、マジ疲れた。
もう今日一日は走りたくない……
というか、ダンジョンってこんなに静かだったか?
いや、静かとかそういうのじゃない。
なんというか…辺りから気配とか、そういうものを一切感じられない。
もうちょっとこう……周りから感じていたような気がする。
気のせいかもしれないが。
ま、そんなこと考えても意味ないな。
どーせ後から分かることだし、気配だとかそういうのは武道家でない俺には理解できないことだ。
あ、まだ考えてなかったけど、どこで寝よう?
まさか数日間徹夜しろというのか?
いくら徹夜慣れしたガチなヲタクな俺でも、それはちょっときついぞ。
…よし、やることは決まったな!!
1.水確保!!
2.飯確保!!
3.寝床の確保!!
この三つを優先してやっていこう。
脱出よりも先に、自分が生きる方法を考えるべきだろう。
さっさと脱出するぞー!!
そんなことを考えながらダンジョンを歩いていると、一本道のような場所から広間に出てきた。
ここ、ダンジョンのどの辺なのだろう。
というか、このダンジョンってどんな構造をしているんだ?
やっぱり階層があるのか?
地下一階とか、地上の三階とか、そんな感じで。
もしそうだったら脱出にどれだけ時間がかかるんだ。
やめやめ、今はそれよりも優先すべきことがあるだろう。
それより、本当に水とか食糧ってあるのか?
いや、でもなかったらあのゴブリンはどうやって生きているのか説明がつかない。
共食い……の可能性が高いな。
一匹のゴブリンが数匹のゴブリンから食われている姿が頭に浮かぶ。
うわ…グ、グロ………
……うん、こういう想像はやめよう。
だんだんと精神が壊れていきそうでこわい。
ポジティブに…ポジティブに………!!
さて、広間みたいなとこに出てきたのだが、目の前には三つの道が。
右に曲がるか、左に曲がるか、真っ直ぐ進むか……
ん?
広間ってことはここ目印になるんじゃないか?
じゃあここから右手を壁に触れさせたまま進む作戦を再開すれば、少なくともこの広間には戻ってこれるということか。
おお、我ながらファインプレー、俺、よくこの広間を見つけた!!
しかも、この広さなら余裕で寝ることができる!!
もしゴブリンが来ても逃げ込める道は、俺が来た道も含めて四つ!!
楽勝とまではいかないだろうが、なんとか逃げることは可能なはずだ。
いた!!
神は、いたんだ!!
神は俺を見捨ててなんかいなかった!!
神は俺の努力をちゃんと見ててくれたんだ!!
ごめんなさい神様、本当はいないんじゃないかって疑ったりして。
これからはちゃんと信仰して生きていきます!!
神様、本当に、本当にありがとうございます。
これで生き残れる!!
前世では信用していなかった言葉だが、あえて言おう。
努力は必ず報われる!!
さあ、神に祈ってばかりでは助かった命を無駄にしてしまう。
動け、動くんだ。
そして、あわよくばここから脱出してやるぜ!!
左、右、真ん中………
どーれーにーしーよーうーかーなー、てーんーのーかーみーさーまーのーいーうーとーおーりー
…………左!!
よーし行くぞー!!
行けー!!
進めー!!
フハハハハハ!!
俺は神様を味方につけたんだ。
もう無敵と言っても過言ではないんじゃないか?
フォオオオオ!!
おっと、さすがにハイテンションが過ぎたな。
しかし俺は神に安全を(たぶん……)保証されたのだ!!
そりゃあ、おかしなテンションになってもおかしくないだろう。
この調子でガンガン進むぞー!!
鼻歌を口ずさみながらダンジョンの細道を進んで行く。
うーむ、ダンジョンに響く俺の鼻歌を聞くと、だんだんと寂しさを感じてくる。
目の前に見えてきた曲がり道は、先ほどとは逆の左に曲がる。
すると、角を曲がったその直後、誰かにぶつかりかける。
「す、すいませ……」
日本のときの名残で、つい謝りかけてしまう。
もちろん、その相手はクラスメイトだとか、ましてや日本人でもない。
そう、彼のゴブリンさんだ。
その手には長剣ではなく、片手斧が。
生涯二度目にして本日二度目の、ゴブリンさんである。
俺の存在を認知したゴブリンは、その右手に持った片手斧を思い切り振りかぶる。
そして、その斧をそのままこちらに振り下ろしてくる……という寸前で後ろを振り返り、全速力で走り出した。
振り下ろされた風圧を背中で受ける。
それにより、さらに恐怖を感じた俺は自分の体を顧みず、スピードを限界にまで引き上げる。
余裕の表情(?)で追いかけてくるゴブリン。
来た道を全力で戻る俺。
その二人の距離は、徐々に縮まっていた。
走ったままの状態で、後ろをチラ見する。
速すぎるだろ!!
さっきのゴブリンもそうだったが、ゴブリンってどいつもこいつも足が速いのか!?
それってつまり、種族差じゃねーか!!
なんつー理不尽……!!
そうやって走り続けていると、俺は見覚えのある場所にたどり着いた。
そう、例の広間である。
その広間には『それ』がいた。
『それ』を見た途端、俺の生き物としての本能が悲鳴を上げる。
その姿は、俺の記憶の中では熊に一番近かった。
しかし、牙は顎にまで届いていたり、体長が三メートル近くあったりと、日本では見たことのないような生き物だった。
『ヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥヴヴ…………』
低い唸り声が辺りに響く。
俺の体は動かず、声も出せない。
「ギャギャギャギー!!」
俺を追ってきていたゴブリンがその標的を変え、『それ』に突っ込んでいく。
その化け物は、無造作に鋭い爪を持つ右手を横に振り払う。
たったそれだけだった。
気づけば、ゴブリンがもといた位置には鮮血が舞い、『それ』の足元には元ゴブリンのものと思われる肉片がゴロゴロと転がっていた。
右手のたった一振りでゴブリンが即死したということに、数秒の時間を要した。
「う………うおぇ……」
そのことを理解した瞬間、ひどい吐き気に襲われ嘔吐する。
『それ』が俺のほうへと近づいてくる。
「ヒッ………!!」
吐き気を堪えながら『それ』から必死になって逃げる。
そして、俺の逃走劇が幕を開けた。