第三話 ゴブリン………!?
俺は肩で息をしながらダンジョン内を走る。
ギャリギャリギャリギャリ!!
後ろから金属を引きずる音が迫ってくる。
その正体はもちろん、長剣を持った(というか引きずった)ゴブリンだ。
えっと何あれ?
なんか重そうな剣持ってんのに全力で走っている俺と同じくらい速いんだけど!?
めっちゃこえー!!
「ギャギャー!!」
「ヒィ!?」
ゴブリンの上げた奇声に、思わず悲鳴が漏れる。
もう勘弁してくれ!!
俺が何したって言うんだ。
俺は無罪だー!!
「冤罪ダメ、ゼッタイ!!」
言葉が通じる訳がないが、焦りからゴブリンに叫ぶ。
焦りすぎて、ちょっとカタコトになってしまった。
ま、まあ言語が理解できるんなら分かってくれるはずだ……たぶん。
チラッとゴブリンの緑色の顔色を窺ってみる。
少しくらい分かると思ったが、先程と全く違いが分からん。
というより、表情に変化が見られない。
「何考えてるのか分かんねー!!」
もしかすると、何も考えてないんじゃないか?
あ、ありえる……!!
でもいくらざこゲフン!……初級モンスターだからって何も考えてないことはないだろう。
目を凝らしてゴブリンの表情を、なんとか読み取ろうとするが、予想することすらできなかった。
いや、もうポーカーフェイスと呼んでも良いくらいだ。
あの『ギャーギャー』っていうのにも、何か意味でもあるのか?
話す相手がゴブリンじゃないと伝わらない言語で、それで何て言ってるのか分からないとか?
ゴブリン語みたいな感じで。
めんどくせー。
言語なんて、全部統一すればいいものを。
転生(仮)する前もずっと思っていたことである。
まあまず魔物だから言葉なんて存在しないのかもしれないが。
「とりあえず止まれー!! 俺の話を聞く努力くらいしろー!!」
ダメだ。こんなの、まだ猿と会話するほうがマシだ!!
「ギャギャッ!!」
俺の心の叫び声が聞こえたのか、初めて真顔(?)のような顔から、怒ったような表情に変えながら更にスピードを上げてきた。
今まで全速力じゃなかったのかよ!!
こっちは超全速力なんだぞ。
つーかもう限界を越えられそうだよ!!
ヤ、ヤバい、このままだと追い付かれる………!!
と、そこで後ろから風が吹いてきた。
ん、風? 待てここダンジョンだろ? まさか出口が……
走りながら後ろを振り返ってみると、外から差す日の光………ではなく、長剣を振り回すゴブリンが。
なんだよ、紛らわしいことすんなよ!!
ていうか危ないからそんな物騒なもん振り回すな!!
俺を殺す気か!!
いやまあそのつもりなんだろうけど。
しかしゴブリンは、剣を振り回すだけでは飽きたらず、俺に向かって思い切り振り下ろしてきた。
「うわ、あっぶね!!」
それを、すれすれで避ける。
「ギャッ!!」
「おわっ!?」
ゴブリンが剣で突いてきた。
うわっ、服かすった!!
ヤバいヤバい、マジでヤバい!!
このままじゃほんとに死ぬことになる………!!
なんとかしねーと……
待て、もう戻ってきたんじゃないか? 一番最初の場所に。
くっそ、どうする?
てか今更だけど、なんでゴブリンがこんな強いんだ!?
いや俺が弱すぎるだけなのか?
どっちにしろ、逃げなきゃヤバい!!
5分後。
ゴブリンをなんとか撒くことができた、が……
「完全に迷った……」
逃げるのに必死すぎて、何度か逆のほうに曲ってしまったのだ。
まあ、最初から遭難してるようなものだったけど。
あれ、ほんとにゴブリンか?
あんなの、俺の知っているゴブリンさんと違う!!
ゲームとかラノベに出てくるキャラクターって、めちゃくちゃ強かったんだなぁ。
今俺は、当てもなくただダンジョンを彷徨っている。
いや、ゴブリンを撒けただけマシだろう。
……まぁ、撒いたというよりは、ゴブリンのほうが俺を追いかけるのに飽きたというべきか。
とにかく生き残ることだけ考えて行動しよう。
まずは人間の基本、衣食住の『食』だ!!
腹が減っては戦はできぬ、これがなければ話にならない。
しかしだ。
モンスターは強すぎて、俺のご飯にする事はできない。
他の動物は、もしかすると存在すらしない可能性も。
これはヤバい。
しかも、ここは洞窟っぽい見た目だが本当に洞窟なわけではなく、湧き水などもない。
水すら手に入るか怪しい。
要は、超非常事態なのである。
と考えた俺は、何かできることがないか考えてみたのだが、一切思い付かなかったため、うろうろしているのだ。
結局のところ、どうすればいいか分からないだけだ。
とりあえずダンジョン内を探索してみることにした。
しかし、なんとなく足が重い。
さっき全速力でダッシュしてたからなぁ。
あー喉が渇いた。
腹へったー。
……そんなこといってても何も始まらない。
やってやる!!
絶対にこのダンジョンで食べ物と飲み物を手にいれる!!
よし、やるぞー!!
おー!!
そして俺は、ダンジョン内をズンズンと進んでいく。
しかし、この時の俺はまだ知らなかった。
このダンジョンは、簡単に人を殺せるようなモンスターで溢れ帰っている、ということを。